「破産宣告」からの復活、ギブソンCEOが語る「100年のビジョン」

──「伝統」と「革新」の両軸があってこそ、文化は発展していくものだと私も思います。

まさに。その点でいえば日本文化はどの国よりも素晴らしいですよね。「heritage(伝承)」と「authenticity(信頼性)」を大事にしつつ、未来志向を持ってイノベーションをし続けていく。見習うべきところです。

──ありがとうございます(笑)。ギブソンが継承すべき「オリジナル」の部分はよく理解できました。では、イノベーションし続けていくべき「モダン」の部分を具体的に言うと?

例えば、より弾きやすくするためにネックの形を改良する。そのために私たちは「アシンメトリー・ネック」というものを開発しました。また、ボディを軽くするために材質を変えたり、電気系統をシンプルにするための改良を加えたり。そうやって開発されたのがギブソンの「Modern Collection」です。

また「Original Collection」と「Modern Collection」に加え、現在私たちが力を入れているのは「Custom Shop Collection」です。「Custom Shop Collection」は、クラフトマンシップ、クオリティ、サウンドどれにおいても最高峰に位置づけられるコレクションです。例えば今年は、60周年のアニバーサリーとしてサンバースト・レス・ポール59年モデルを復刻しました。サンバースト・レス・ポールは、ギブソンにとって最も大切なモデルの一つです。しかも今回、過去最高のものができたのではないかと自負しています。これ、すごいんですよ(笑)



──ギブソンのCEOに就く前は、リーバイ・ストラウスでブランド責任者を務めていたあなたは「ギブソンとリーバイスには共通点がある」とおっしゃっています。その共通点について、具体的に教えてください。

共通のキーワードを挙げるとしたら、それは「authenticity」だと思います。例えばリーバイスはブルージーンズを作り続け、百数十年の歴史を持っています。ただのジーンズではなく、様々な歴史や文化を包含している「ライフスタイル・ブランド」といえますね。あらゆる世代にファンを持ち、彼らの人生そのものにも深く関わってきたブランドです。ギブソンもリーバイス同様100年以上の歴史があり、あらゆる世代に愛されその人生に関わってきました。

それともう一つ。リーバイスもギブソンも、自分たちがトップブランドの地位にいることに対して「あぐら」をかいてしまっていた時期が正直ありました。「現状維持さえしていれば安泰じゃない?」といった具合に。もちろん、それでは通用しないということに、ギブソンもリーバイスもようやく気づくことができました。新たな世代に向けてはもちろん、既存のファンに向けてもアップデートし続けていかなければいけないということに。リーバイスが「ただの洋服」から「ライフスタイル・ブランド」へと生まれ変わり、ギブソンが「ただの楽器」から「シェイパー・オブ・サウンド」へと生まれ変わることが出来たのは、そうした紆余曲折があったからでしょう。

──ジェームズさんは、ここ最近の音楽シーンの動向をどのように見ていますか?

とにかくスタイルやジャンルが幅広くなっていることを感じます。そして、その音楽を受け取るリスナーの「選択肢」も広がりました。CDやレコードのようなフィジカルだけでなく、ストリーミングやサブスクリプションなど多種多様です。ライブ音楽の需要も過去最高レベルですよね。小さなライブハウスから、巨大な野外フェスまで世界中に存在し、音楽はどこにでも溢れている印象です。

才能あるアーティストは、以前よりも早いスピードでビッグになっていく。エド・シーランなんて、あっという間にスターダムを駆け上がっていきました。それとは別に、ローカルなアーティストが活躍する地盤も固まりつつあるような気がします。私はフェスに行くと、その国のローカルなバンドの演奏を聴くのがいつも楽しみなんです。地元の人たちにものすごく人気のある若いバンドが、オーディエンスと一体になってシンガロングしている光景を何度も観てきました。そんな次世代のアーティストたちが、フェスやSNSを通じて自由に自分たちを発信していく。そんな環境が整いつつあるのは素晴らしいことだと思っていますね。

──現在はヒップホップがトレンドになり、ギタリストの人口は減少傾向にあると聞きますが、そんな中でギブソンはどのような役割を果たしていくと思いますか?

でも、振り返ってみれば70年代にはディスコが流行り、ギター・ロックが目立たなくなっていた時期もありましたよね? それでもパンク・ムーヴメントによって再び息を吹き返すといった具合に、時代はグルグルと回っています。もちろん消えてしまったジャンルも中にはありますが、そんな中ロックはずっと生き延びてきました。しかも、このところ『ボヘミアン・ラプソディ』が空前のヒットを飛ばしたり、『アリー/ スター誕生』や『ロケットマン』が好評を博したり、再びギターが存在感を増している気がしています。今年のグラミー賞でもギターは大活躍していましたし、最近だとカイゴというノルウェーのDJが、バンドを従えてのパフォーマンスを行なっています。私たちギブソンとしては、いつの時代であってもギターが持つ“エネルギー”を、皆さんのもとへ届けられるようにしておくことが使命なのだと思っていますね。

──今後、どのような仕掛けをしていきたいと思っていますか?

今後はコラボレーションにも力を入れていきたい。例えばアパレル・ブランドやギター・アクセサリーのメーカー、ギターのブティック・ブランドなど、様々な分野とのコラボレーションを積極的に行うことで、新たな展開が広がっていくことを楽しみにしています。

──日本での展開については?

もちろんレジェンドから新世代まで、様々なアーティストとシグネチャー・モデルの開発など、積極的におこなっていきたいと思っています。日本は常に興味深いトレンドを生み出してきた国です。形や色、技術など様々なイノベーションを起こしてきましたよね。ギターという、ある意味トラディショナルな楽器に新たなアイデアを紐づけるために、日本の力を是非ともお借りしたい。アーティストの方や、ショップのスタッフ、ディーラーの方たちと今後も密にミーティングを重ね、世界に向けて発信していけるようなギターが生まれることを期待しています。

──ところでジェームズさんご自身は、どんな音楽が好きですか?

ローリング・ストーンズとボブ・ディランはマストです。アンドリュー・スレーター監督のドキュメンタリー映画『Echo In The Canyon』(2019年)はご覧になりましたか? あの映画でジェイコブ・ディランとジェイド・カストリノスがカヴァーしていたママス&パパスも好きですし、CSN&Yやマムフォード&サンズ、グレタ・ヴァン・フリートなどもお気に入り。ジャンルに捉われず、全ての音楽に対してオープンでいるように心がけています。私が現在住んでいるナッシュヴィルにはジャック・ホワイトもいるし、ブラック・キーズのスタジオもある。先日はボン・ジョヴィもレコーディングのためにナッシュヴィルを訪れていました。もちろん彼らの音楽も大好きです。

──では、「ギブソンを演奏しているギタリスト」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは?

難しい質問ですね(笑)。思うにギターブランドが他のメーカー、例えばナイキやアップル、マイクロソフトなどと違うのは、ユーザーであるギタリストが特定のブランドだけを使うのではなく、様々なブランドを同時に愛用しているというケースが多いことです。例えば「フェンダー使い」として有名なエリック・クラプトンもキース・リチャーズもギブソンを愛用していますし、ミック・ジャガーやシェリル・クロウもギブソン・ユーザーです。ポスト・マローンやブランディ・カーライルといった、若い人たちもギブソンを弾いている人は多い。そういえばこの間のグラミー賞で、ポスト・マローンがギブソンJ-200を弾いている姿を観ました。なので、ちょっと一人には絞りきれないです。

──わかりました(笑)。では最後に、日本のギブソン・ファンに向けてメッセージをお願いします。

私は日本に来るのがいつも楽しみです。今世界はとてもクレイジーな状況で、毎日とんでもないことばかり起きていますが、だからこそこの国を訪れると心からホッとするんですよね。さっきも話したように「歴史」や「伝統」を重んじながら、「未来」についてオープンに考えているこの国に来られることが、本当に嬉しい。なので皆さんには、「Keep on rockin’ in the free world!」(自由な世界でロックし続けよう)という、ニール・ヤングの歌詞の一節をお送りしたいと思います。

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