VHSから未知の世界へ、VIDEOTAPEMUSICが語る「エキゾ」の探求

VIDEOTAPEMUSIC(Photo by Kazuki Iwabuchi, Photo Direction by Hiroaki Nagahata 撮影協力:ドエル)

旧式の映像メディアとして、今や家庭からも街中からも、そして人々の記憶からも消えようとしてるVHS(ビデオテープ)。かつてヒップホップのトラックメイカーたちが時代に埋もれたレコードから新しい音楽を作り出したように、映画、ドラマ、果てはイメージビデオなど、打ち捨てられたそうしたVHSから映像とサウンドをサンプリングし、極めてオリジナリティ溢れる表現活動を行ってきたのが、11月2日開催のScramble Fes 2019に出演するVIDEOTAPEMUSICだ。

2009年の自主制作盤でのデビュー以降、ポストパンク、ローファイ、ムード音楽、エキゾ、モンドなど、様々な養素を織り交ぜた独自の表現をブラッシュアップさせてきた彼だが、近年は先端的なダンスミュージックの要素も大胆に取り入れ、自身が手掛けるVJを交えたライブ活動とあわせて、クラブミュージックシーンでも高い評価を得ることとなった。

今年7月にリリースされた最新アルバム『The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC』は、横山剣(クレイジーケンバンド)、高城晶平(cero)、折坂悠太、ロボ宙、mmm、カベヤシュウト(odd eyes)、キム・ナウン(ex. Parasol/韓国)、Mellow Fellow(フィリピン)、周穆(Murky Ghost/台湾)といった多彩かつ豪華なゲストボーカル陣を招いた初の全編〈歌モノ〉アルバムとなっている。アーティスト名に象徴的なように、匿名的かつコンセプチュアルな美意識に貫かれてきた彼の音楽だが、この新作においてはそれぞれの楽曲が個性豊かなフィジカリティを纏わせることで、ポップスとしての圧倒的強度を獲得することとなった。そのコンセプト性ゆえ、時にヴェイパーウェイブとも関連付けて語られる彼の音楽だが、ここから聴こえてくるのは、自分の耳と足を駆使し、今世界中の様々な場所で生まれつつある音楽と積極的に触れ合おうとするヒューマニティに溢れる姿だ。よりダンスオリエンテッドに、一方でそのサウンドは更に精緻かつダイナミックに……集大成的且つこれからの展開を予見させるそんな作品のリリースツアーを盛況に終えたばかりの彼に、普段から足繁く通っているという経堂の住宅街に佇む喫茶店「ドエル」にて話を訊いた。


―子供の頃はどんなものに興味を持っていたんでしょうか?

VIDEOTAPEMUSIC(以下V):実は子供の頃音楽が一番苦手な分野だったんです。絵画や映像のほうが好きでした。でも、ラジオは好きでよく聴いていましたね。特定の番組をちゃんと聴くとかじゃなくて、どこからともなく混線して聴こえてくる外国語の放送とか……。思えば、ガジェット的なものにロマンを感じたり、未知のものへ興味を抱くという今の自分の音楽に通じる要素もその頃に遡るのかもしれません。

―VHSという媒体に対して特別な興味を持つようになったのは?

V:昔の特撮モノや怪獣モノが好きだったこともあって、そういった作品のVHSを近所のレンタルビデオ屋で借りて観ていたので、はじめは当たり前のものとして生活の中にあった感じですね。メディアとしての魅力を意識するようになったのは2000年代前半、DVDに移行していく中でVHSがどんどんなくなっていく頃。地元小平周辺のレンタルビデオ屋の閉店セールとかリサイクルショップを漁るようになりました。



―色々な音楽へ関心を持つようになったのもその頃?

V:そうですね。武蔵野美術大学に入ったころから興味が広がっていきました。高校時代にも一応バンドをやったりしていたんですが、それはあくまで単純な楽しみのためだけで、大学で周りの友達や授業を通していろんな音楽について知ていくうちに、自分の中にそれまであった映像への興味と融合したものを作ってみようと思ったんです。その頃は、ナム・ジュン・パイクのビデオアート作品やアンディ・ウォーホルの映像作品、宇川直宏さんの仕事にもとても刺激を受けました。レコードじゃなくて、VHSをサンプリングソースにしようと思ったのは、単にVHSの方が自分にとって身近だったからです(笑)。

―その頃よく聴いていた音楽は?

V:ボアダムズやバッファロー・ドーター、コーネリアスなどの日本のオルタナティブな音楽や、海外のいわゆるローファイ、ポスト・パンク系、特にフライング・リザーズには影響を受けました。ずっと音楽教育からドロップアウトしてきた身だったので、「身近な素材でこうやって自由に音楽を作っていいんだ!」という衝撃がありました。VHSからサンプリングするという制作法にはそういう考え方も反映されていると思います。


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