バトルスが塗り替えた21世紀の音楽シーン、「2人」になったバンドの復活劇

バトルスのジョン・ステニアーとイアン・ウィリアムス(Photo by Chris Shonting)



─ただ、幸福な時代はそう続かなかったんですよね。タイが2009年にソロ作『Central Market』を発表すると、その翌年にバトルスを脱退。3人体制で再始動した2ndアルバム『Gloss Drop』(2011年)は、今だから正直に言うと、なかなか厳しい作品だったと思うのですが。

天井:確かに賛否両論ありましたよね。多数のゲスト・ボーカルを迎えたアルバムになったのも、やっぱり本人たちがどう説明しようが、タイの穴を埋めるためなのは拭いきれないところで。「サウンド面でタイが手がけた部分はそもそもあまりなかった」とジョンは話していたけど、結果的にタイトな制作期間を迫られたせいもあってか、悪い意味でバンドの生身っぽさが出てしまってますよね。良く言えばライブ感のあるサウンドなわけだけど、(EPと比べれば)過剰にポップで装飾的な方向へと振れたことで、デビュー当初のストイックな構築性が後退してしまった。それで戸惑うファンも多かったんじゃないかな。

─タイが抜けるまでは揉め事が絶えなかったそうですが、そういう緊張感によって保たれていたバランスもあったんでしょうね。

天井:結果的に、似たような出自の3人が残ってしまったので。ヒューマンエラーが起きづらくなったぶん、予測不能なスリルは薄れましたよね。





─ボーカルの人選はユニークなんですけどね。テクノポップの第一人者、ゲイリー・ニューマンに「My Machine」なんて曲を歌ってもらったり。

天井:ただ、それがバトルスに求められた曲だったかと言われると……(苦笑)。その一方で、「Ice Cream」や「Dominican Fade」で聴けるパーカッシブでトロピカルな雰囲気は『Gloss Drop』の魅力だと思います。バトルスのメンバーはKompakt(ドイツのエレクトロニック・ミュージック系レーベル)のファンで、「Ice Cream」で歌っているチリ出身のマティアス・アグアーヨや、あるいはブラジル出身のギ・ボラット(Gui Boratto)といったトラックメーカーへのシンパシーが、陽的なサウンドに反映されていますよね。

─そのギ・ボラットも参加した、同作のリミックス集『Dross Glop』(2012年)が秀作なんですよね。ザ・フィールド(ミニマルテクノ)、コード9(ダブステップ)、シャバズ・パラセズ(ヒップホップ)など同時代の異端児を集めつつ、ドイツ電子音楽の大御所であるクラスター(Qluster)も参加しています。

天井:ジョンはザ・フィールドの作品でもドラムを叩いてましたし、そういったシーンやジャンルを横断した嗜好性が、本人たちのサウンドにも落とし込まれていますよね。最新作にも通じる話ですが、視野が広くて歴史認識に長けたリスナー感覚も、バトルスのバックボーンとして重要なのかなと。



─その後も試行錯誤は続いているようで、2015年の3rdアルバム『La Di Da Di』は一転、全編インスト作品になりました。

天井:原点回帰作とも言われましたけど、タイトに音数を削ぎ落したって感じはしなかったですね。実際、制作にあたっては「ミニマリズム」がキーワードとしてあったらしく、「Dot Net」や「Flora > Fauna」みたいな初期のEPを発展させたような曲もある。ただ、タイが抜けて空いたスペースを3人のプレイヤーが自在に行き交うことで、EPにはない余裕やリラックス感が生まれていたというか。『Gloss Drop』ではそのスペースに音を詰め込むことに必死だったところも感じられたけど、トリオ編成のバトルスのスタイルをようやくつかむことができたのかなって。アフリカンなギターを聴かせる「Luu Le」だったり、レゲエっぽいオフビート感覚のある「Megatouch」もあったりと、曲調のバラエティもありますし。





─自然体で「らしさ」に満ちた、ベテランの貫禄も感じられる作品でしたよね。ただこれまでに比べると、同時代的なトピックが見出しづらいのも事実で。この年は他にもトータスなど、ポストロックを牽引してきた大物の新作リリースが集中しましたが、ジャンル自体の勢いが盛り返すまでには至らず。

天井:そこですよね。前作のようにゲストがいるわけでもないし、同時代性という横軸で何か語れるかというと難しい。

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