バトルスが塗り替えた21世紀の音楽シーン、「2人」になったバンドの復活劇

─前作では、良くも悪くも孤高のバンドになりかけていたんですが……最新作の『Juice B Crypts』は期待を上回る内容じゃなかったですか?

天井:うん、かなり楽しめました。デイヴも抜けて2人編成になったと聞いたときは、正直どうなるかと思いましたけど。ちなみに、今回のアルバムは初めて歌詞(対訳)が付いているんですよね。それは「ボーカル」への意識やアプローチが変化したことの表れなのかなと。

─というと?

天井:やっぱりタイが抜けてここまで、バトルスの複雑に構築されたサウンドの中で「ボーカル」をどう扱うかというのは課題であり、鬼門でもあったと思うんですよ。扱うか/扱わないかの選択も含めて。タイの声はあくまで「楽器」だったし、『Gloss Drop』もその感覚でゲストに歌ってもらっていた。それが今回は、きちんと「歌い手」として呼んでいる。歌詞が掲載されているのはその証だし、そこの違いは大きいと思います。ボーカル曲ではバンド側もこれまでより「オケ」として振舞っていますし。

─ボーカリストの人選もかなり大胆ですよね。「They Played It Twice」で歌っているセニア・ルビーノスも超人的な馬力を見せているし、次の曲「Sugar Foot」では、なぜかイエスのジョン・アンダーソンとコラボしているという。

天井:僕が最近インタビューしたところによると、ジョン・アンダーソンがソロアルバムを作る際、ジョン・ステニアーに参加してほしいと誘っていたそうで。でもスケジュールが合わず、逆にバトルスが何かやる時は誘ってくれよってジョン・アンダーソンからメールをもらって、それが数年越しでようやく実現したそうです。

─ジョン・アンダーソンってもう75歳なのに、まだこんなに声が出るんだって(笑)。楽曲自体もプログレ的で、ドラムもジェネシス時代のフィル・コリンズっぽいし、『Mirrored』の1曲目「Race : In」を彷彿とさせる部分もある気がします。

天井:言われてみれば、歌の感じがちょっとタイっぽいですね。同じ曲で台湾のエクスペリメンタルロック、落差草原WWWWのボーカリストが参加しているのも面白い。あと、シャバズ・パレセズが参加した「Izm」では、ジョンが律儀にブレイクビーツを叩いてますよね。昔だったら考えられない。チューン・ヤーズを迎えた最後の曲「The Last Supper On Shasta Pt. 2」もそう。サティっぽい不穏なピアノのコード……誰が弾いてるんだっていう。こんな事するようになったんだって(笑)。




─ほかにサウンド面で気になった点はありますか?

天井:今回はモジュラーシンセをたくさん使ってるそうで、浮遊感のあるコードや揺れるようなエレクトロニクスの音を効果的に使ってますよね。ジョン・アンダーソンの曲もクラウトロックというかステレオラブっぽいし、5曲目の「Fort Greene Park」も然り。後者はイアンが弾くメロウなギターソロにもびっくりしました。歌心のあるアルペジオで……もう2人しかいないから、贅沢にお互いの間合いを使っていて。この5曲目の始まりは衝撃でしたね。「こんな聴かせる泣きメロ弾くんだ!」みたいな。

─かつては最大3本あったのに、もはや1本だけになったギターがループしていく「Titanium 2」は、実にバトルスらしいドラムも含めて、今の彼らを象徴する曲でしょうね。新しいアイディアにも迷いがないし、自分たちらしさを見直す余裕も感じられる。

天井:その辺りはインタビューでも言ってましたね。3人だとケンカになるけど、2人だと役割もはっきり分かれているから、あまり衝突もないと。以前より作りやすくなったと言ってるのは、決して強がりではないと思います。それと、ジョンが話していて印象的だったのは、今作はミニマリズムの真逆で“マキシマム”だということ。「たった2人で作ったわりにものすごくいろんなことが起こっているという意味でもマキシマムだと思う」と聞いて、今作の充実ぶりを象徴しているなと腑に落ちましたね。




─あと、『Juice B Crypts』は前作から見違えるくらい、音がモダンになりましたよね。

天井:ここにきて、ようやく真っ当な外部プロデューサーと組んでいるんですよね。クリス・タブロンという人で、ビヨンセやニッキー・ミナージュといったポップ・ミュージックの有名どころから、ストロークスや!!!などバンド系、Warp所属のケリー・モーランみたいなエクスペリメンタル系まで、幅広くプロデュースやエンジニアリングを手がけていて。

─ロバート・グラスパーの関連作や、ジェイミー・アイザック、リトル・シムズカインドネスといったUK勢の話題作にも携わってます。

天井:ジョンも「若くておしゃれで今の時代のプロデューサー」と呼んでいるように、プロダクション/ミキシングの今っぽさは、クリス・タブロンの手腕が大きいんでしょうね。それこそ、さっき話した“ボーカルの扱い方”というところも含めて。彼はインド系ギタリストのラフィーク・バーティアによる『Breaking English』(2018年)のように、先鋭的なサウンドデザインを持つ作品にも関与している。





─そのラフィーク・バーティアが参加しているサン・ラックス(Son Lux)も、NYを拠点にしたポストロック・バンドということで、バトルスの後輩だと言えなくないのかなと。そういう若い世代とも潜在的にシンクロするような、横の繋がりも今回はしっかり感じられると思います。

天井:『Mirrored』のヒットから10年以上を経て、久々にいい風が吹いてる感じがしますね。

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