バトルスが塗り替えた21世紀の音楽シーン、「2人」になったバンドの復活劇

バトルスのジョン・ステニアーとイアン・ウィリアムス(Photo by Chris Shonting)

最新アルバム『Juice B Crypts』をリリースしたばかりのバトルスが、平沢進+会人(EJIN)をゲストに迎え、11月4日より来日ツアーを行う(全公演完売)。21世紀の音楽シーンに革命を起こした4人組も、メンバー脱退を経て、2019年現在では2人体制に。しかし彼らは、逆境にもめげず新たなピークを迎えようとしている。その数奇な歩みを掘り下げるべく、オルタナティブ・ミュージック全般に詳しいライターの天井潤之介に話を伺った。


─バトルスは2002年にNYで結成されたあと、まだ無名の頃から日本で紹介されてましたよね。

天井:そうですね。Warzawaやsome of usに通っていたら、小林さん(※)が異様に推してたんですよ(笑)。最初に聴いたのはミックスCD。CD-Rのペラいスリーブケースで、その後に出るEPの曲と一緒にDJのコールが入ってて。

※小林英樹:吉祥寺Warzawa店員、Warzawa渋谷店店長を経て、Warzawa渋谷店撤退後は同じ場所で個人経営のレコードショップsome of usを経営。同店を閉店後、2008年に54-71のメンバーと共にレーベル「Contrarede」を設立。

─そんなの出てたんですか。

天井:彼らは2004年に初来日する前から、「なんか凄いバンドが来るらしい」と評判になってたんですよ。「でも音源はまだないんだよね」とか話してたところに、小林さんが「こんなのあるよ」ってCD-Rを教えてくれたんだったかな。でも、曲はブツブツ途切れるしDJのコールが入ってるし、これだけ聴いてもよくわからんと(笑)。その時点ではまだ、バンドの全体像は掴めなかった。


「DJ Emz Presents Battles Mixtape Sampler」

─2004年1月のバトルス初来日ツアーでは、1月7日に渋谷AX(現在は閉店)でマーズ・ヴォルタの前座を務めたのを皮切りに、オルタナ〜ポストロック系のフェス「PEAK WEEK」への出演など全9公演が行われています。

天井:僕はマーズ・ヴォルタの公演で見ましたけど、あそこにいた人はみんな「バトルスのほうが良かった」と言ってましたね。とにかくライブのインパクトが大きくて、そこから一気に評判が広まった印象です。

─やっぱりライブは凄かった?

天井:言い表すのが難しいんですけど……人がやってるのに機械っぽいというか、(インストなのに)プログレとかジャズロックっぽい感じがしない。ループを使ったミニマルな音作りと、テクノみたいなエディット感。それを人力でやっているのが当時は斬新でしたね。そもそも、前情報で想像してたのとも違っていて。ヘルメットやドン・キャバレロのメンバーがいると聞いていたのに、バトルスの音楽はギターロック的なエモーショナルな熱っぽさがないんですよね。

─ドラムはダイナミックだけど抑制が効いているし、「マス・ロックの先駆け」と言われたドン・キャバレロの緻密さや緊張感を継承しつつ、音像やテクスチャーはもはや別物で。バンド・サウンドをデジタルな感性で再構築した、21世紀的なアンサンブルの先駆けでもあったのかなと。

天井:だから僕自身、最初からロックバンドの音楽として聴いてなかった気がします。とにかく新しいバンドが出てきたって感じ。


2004年1月10日、新宿LOFTで開催された「PEAK WEEK」でのライブ映像。対バンはNYのイーノン(Enon)、WRENCH、KING BROTHERS、Melt-Banana。

─「未来の音」みたいなイメージが強かったですよね。バトルスの登場によって、ポストロックも確実にアップデートされたはずですし。

天井:あの頃はいわゆる御三家、トータス、シガーロス、モグワイの活動もやや落ち着いて、ちょうどブームがひと段落した頃で。「最近、ポストロックって言葉を聞かなくなったな」というタイミングで彼らは出てきた。あとその頃ってちょうど、ハードコアを出自としたり経由したりして面白いバンドやシーンが登場する流れがあって。トータスやスリントなどのポストロック系も遡ればそうだけど、2000年代以降でいえばディスコパンク――NYのLCDサウンドシステムやザ・ラプチャー、それにWarpの同期と言える!!!とか。加えて、ジャッキー・オー・マザーファッカーやサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンに代表される、その後のフリーフォークもそう。そうした気運を背景にしてバトルスも出てきた印象です。


ジョン・ステニアー(Dr)が在籍していたヘルメットの代表作『Meantime』(1992年)


イアン・ウィリアムス(Gt、Key)が在籍していたドン・キャバレロの代表作『American Don』(2000年)


デイヴ・コノプカ(Ba,Gt:2019年脱退)が在籍していたシカゴのマス・ロック系バンド、リンクスの1999年作『Lynx』

─バトルスも結成メンバーの4人中3人はハードコア/マスロック界隈の出身で、ジョンは68年生まれ、イアンは70年生まれと、当時のシーンでも世代的には少し上。そんな実力者たちが集まったスーパーグループのなかに、タイヨンダイ・ブラクストンという78年生まれと比較的若い、アカデミックな才能がいたのも大きかった。

天井:アフロ頭の天才肌で、フリージャズの巨匠ことアンソニー・ブラクストンを父にもつサラブレッド。V6のトニセン/カミセンじゃないけど(笑)、そういう世代のミックス感も面白かったのかなと、今になって思いますけどね。


タイヨンダイ(Gt,Vo,Key:2010年脱退)の2002年作『History That Has No Effect』の1曲目「Great Mass」

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE