韓国出身のNight Tempoが和製シティ・ポップを広める意味「自分や他者を規定してしまうのはもったいない」

Night Tempoが昭和歌謡と出会ったきっかけとは?

─そもそもNight Tempoさんは、どんなきっかけで日本のシティ・ポップや昭和歌謡と出会ったんですか?

Night Tempo:僕が小学校3年か4年の頃に、韓国でカセットウォークマンが流行っていて。僕は1986年生まれで、小学校に上がった頃は1995年くらいなんですが、韓国では当時まだまだカセットとCDが混在していたんですよね。普通にカセットウォークマンが普及していた。ただ、韓国で買うとカセットウォークマンもCDウォークマンもすごく高くて。どっちも欲しかったので、日本で買い付けの仕事をしていて父親に買ってきてもらったんです。

その時一緒に、歌謡曲が色々入った寄せ集めのCDも貰ったんです。その中に中山美穂さんの「CATCH ME」という曲が入っていて、当時は「へえ、こんないい曲があるんだ」みたいに聴いてて。後から日本語を覚えていって、曲は角松敏生という人が作っているんだということが分かり、インターネットが普及してきた20代半ばくらいからは、もっと深く掘っていくようになりました。そこから日本のシティポップや昭和歌謡……80年代の良かった時代の音楽を、今もディグる日々です(笑)。

─中山美穂の「CATCH ME」が日本でリリースされたのは1988年なので、Night Tempoさんにとってはもちろん後追いだったと思うんですけど、どんなところに惹かれたのでしょう。

Night Tempo:理由はよく分からないのだけど、とにかく自分のテイストに合ったんだと思います。韓国では、日本ではやったものが5〜6年遅れて入ってくるから、そこまで「古臭い」とも感じなかったし、言葉はわからなくても「リアルタイムの音楽」と思えたというか。シンセサイザーもたくさん入っていて、リズムマシンもガンガンに鳴っていて「かっこいい!」って。むしろ、ビートルズのような、バンドサウンドの方が「古くさい」と感じていました。

─なるほど。でもNight Tempoさんが10歳の頃ってちょうどブリットポップやデジタルロック全盛だったと思うのですが、その辺の音楽は聴いてなかった?

Night Tempo:うーん、当時の韓国ではオアシスとかよりブリトニー・スピアーズが流行ってましたね。あとは、今言ったビートルズやイーグルスのような60〜70年代のいわゆる「クラシック・ロック」がよく流れていました。

─逆に、韓国には当時シティ・ポップってなかった?

Night Tempo:ありました。でも、当時はまんまパクったような曲ばっかりだったし(笑)、日本に比べてサウンド・プロダクションもチープでカラオケみたいだったので、あまり夢中にはなれませんでしたね。今、タイやベトナムで流行ってるシティポップみたいな感じというか(笑)。ただ最近は、Light & Salt (빛과 소금)の「Fairy of shampoo (샴푸의 요정) (シャンプーの妖精)」や、キム・ヒョンチョルの「왜 그래」、Exhibition(전람회)の「취중진담(醉中眞談) 」といった、韓国で昔リリースされた音楽が「シティ・ポップ」の文脈で再評価され、クラブなどでかかる時もあります。

昭和歌謡を掘るだけでなく、それらをネタにしたリミックス音源を作るようになった経緯は?

Night Tempo:僕はダフト・パンクもすごく好きで、その周辺のフレンチ・ハウスやフィルター・ハウスをよく聴いていたんです。彼らはイタリアン・ディスコなどをネタにトラックを作っていたけど、それを日本の昭和歌謡にしてみたらどうかなと思いついて。

もちろん、2000年代後半くらい……本格的なシティポップ・ブームがくる前から、山下達郎のファンキーな曲をネタにしていた人はいました。ただ、昭和歌謡を使っている人はほとんどいなかったんですよね。これは先にやったもの勝ちだなと(笑)。

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