韓国出身のNight Tempoが和製シティ・ポップを広める意味「自分や他者を規定してしまうのはもったいない」

現代と過去をつなぐサウンドメイキングの背景

─Night Tempoさんの音源を聴くと、サンプリングネタに使用しているカセットテープの質感や、コンプレッサー、サイドチェインなどの大胆なエフェクト処理、そしてYAMAHA DX100など80年代を代表するシンセの音色といったテクスチャが重なり合っているところに特徴があると思いました。

Night Tempo:そうですね。ジャスティスの質感が僕はすごく好きで、それをNight Tempoでも導入してみようと思って。昭和歌謡にコンプレッサーをガンガンかけて、サイドチェインを通して、声を加工したり、カットアップしたり。そしたら自分的にハマったんです。「ドロップ」や「ブレイク」のような、EDMのアーティストがよく使うワザとか敢えてやらないのが自分のルールですし、リミックスやリエディットを行う際、最近のシンセは一切使わないようにしています。おっしゃるように、エフェクト加工やエディットが新しいだけで、素材はすべて昔からあったものを使っていて。そこがみんなに楽しんでもらえているポイントなのかなと思いますね。

ただ、それで「食べていこう」なんて最初は思ってもいなくて。単なる趣味の延長で作っていただけなんですよ。僕自身、一昨年の冬までITプログラマーという本業もありましたし。



─デザインも含めてトータルコンセプトを考えるようになったのは、Neoncity Recordsの主宰との出会いも大きい?

Night Tempo:彼も日本の80年代カルチャーのファンだったから、「一緒にやるならちゃんとこだわったものにしよう」と最初に話しました。最初はカセットでのリリースだったのですが、インデックスにも相当こだわりました。おかげでリアクションも上々。ネットで僕ら。一番カセットテープを売っているんじゃないかなと思います。月、多い時で7000本くらい出ているので。結構、僕らって大変なことをやってしまったのかなって(笑)。

ちなみにアートワークは現在、Shiho So (蘇 詩帆)とtree13を主に起用しています。僕ら『セーラームーン』や『きまぐれオレンジロード』『超時空要塞マクロス』のタッチが好きなので、それを参考に「現代っぽさ」をブレンドしていますね。

─よく、日本に来てディグっていたそうですね。

Night Tempo:Neoncity Recordsの主宰と出会った頃は、2カ月に一度は有給取って一緒に日本を旅行しながら、レコードやカセットを掘っていました。その頃は昭和歌謡とか僕ら以外誰も興味を持ってなくて、レコードもすごく安かったんですよ。しかも外国人が、高架下やシャッター街のレコード屋へ行って昭和歌謡を買い物しているだけで、すごく不思議がったり喜んだりしてくれて。本当に楽しかった。いつも僕ら、スーツケース持参で一度に50枚くらい買っていくんです(笑)。それでも30000円もしなかったんですけどね。達郎さんの『For You』も、地方だったら1000円切っていたんじゃないかな。今年になっていきなり値上がりして。竹内まりやさんのファーストプレスとか8000円くらいになっていますよね。

─そういう、友人同士の「趣味の延長」みたいなノリが強みなのかなと聞いていて思いました。

Night Tempo:仰るように、もしビジネスパートナーだったら、「デザインにコストをかけ過ぎだ」とかそういうところで揉めてしまったかもしれない。とにかくコスト度外視して、「やるならとことんやろう」と僕らは決めたんです。自分が好きな文化に対し、リスペクトを持って向き合うにはそれが一番いいと思ったので。僕らが昭和歌謡から受けた恩恵を還元する意味でも、ちゃんと当時のものに引けを取らないものを作るつもりで今はいます。

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