ナチス強制収容所の看守が隣人? 元自動車工の老人をめぐる裁判

1986年当時のジョン・デミャニュク (Photo by Sipa/Shutterstock)

1982年、スティーヴン・キングが短編小説『ゴールデンボーイ』――隣に住む男性がナチスの戦争犯罪者だと、10代の少年が暴く物語――を発表したのとちょうど同じ頃、現実世界でも、ナチスの残党とみられる男がオハイオ州クリーブランドで見つかった。

ウクライナ系アメリカ人の引退した自動車工場従業員、家族思いのジョン・デミャニュク氏はいきなり渦中の人となり、ユダヤ人虐殺のあった強制収容所で悪名をとどろかせた看守の一人、“イワン雷帝”だと非難された。

11月4日よりNetflixでスタートする新ドキュメンタリーシリーズ『隣人は悪魔 -ナチス戦犯裁判の記録-』は、デミャニュク氏の立場から事件をとらえる。発端となったホロコースト生存者からの告発、1986年のイスラエル送還と裁判、その後のメディア騒動。Netflixによれば、「裁判によって記憶の隅に押しやられた闇と戦争の恐怖が明るみになるにつれ、デミャニュク被告と彼の犠牲者だと主張する人々にとって、裁判は時間との戦いへと変わっていく」



デミャニュク氏は2012年、91歳で他界した。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、彼は当時ドイツで有罪判決の上訴中だった。かつて彼はイスラエルで裁きの場にかけられ、人道に対する犯罪で1988年に有罪判決を受け、絞首刑を言い渡されていた。だがその5年後、別の人物がかのイワン雷帝である可能性が浮上し、有罪判決は撤回。その後2009年、彼はドイツに送還され、1943年ドイツ占領下のポーランドのソビボル強制収容所で2万7900人のユダヤ人を殺害した罪で裁判にかけられた。2011年に有罪判決を受けるが、その1年後に息を引き取った。

彼の息子ジョン・デミャニュク・ジュニア氏はタイムズ紙に対し、亡くなった父親は「ソ連とドイツの残虐行為を生き延びた被害者でした。ドイツは父を身代わりにして、可哀そうなウクライナの元戦争捕虜にナチスドイツの行いの濡れ衣を着せたのです。このことはこの先歴史が証明してくれるでしょう」と語った。

Translated by Akiko Kato

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