捜査ツールはSNSとポッドキャスト、一般市民が殺人事件解決に貢献

事件の調査に入る前にやらなければいけないこと

ジェンセン氏はゲインズ氏の事件にとりかかる前に、被害者の従姉に連絡を取った。彼女が記者会見で事件について語っている映像を見たからだ。ゲインズ氏を突き飛ばした「男の身元を、新たな手法で突き止めたい」と許可を請うと、彼女は承諾してくれた。そのあと彼はシカゴ警察の刑事に電話し、事件について問い合わせた。折り返しの返答はなく、その後の電話やメールでも音沙汰がなかった。そこで彼は計画を実行へ移した。

2016年7月、ジェンセン氏は事件発生現場の地名にちなんでRiverNorth PuncherというFacebookページを立ち上げた。犯罪1件につきFacebook1ページ、というのがジェンソン氏のルールだ。こうすることで、特定のエリアのユーザーに狙いを定めることができる。彼はゲインズ氏の死亡時の映像に、入手した中で一番写りの良い加害者のスクリーンショットを添えて投稿した。そして協力要請の文章を打ち込んだ。

「これは俺が見知らぬ男を殴ったときの映像だ――そいつはこの後死んだ」と、彼は加害者の視点で、語り口調で書き込んだ。ジェンセン氏は犯行の日時と場所も記入し、緑色のパーカーを着た男について情報がある人はメッセージを送るよう、またシカゴの知人らにも投稿をシェアするよう呼びかけた。100ドルの広告料を支払ったおかげで、投稿は犯行現場から半径2マイル以内のユーザーの目に届いた。

「重要なのは場所です」とジェンソン氏は言う。「現場を絞り込んで、こういう事件が(あなたの近所で)起きたと言えば、誰でも耳をそばだてるでしょう。身を乗り出して、交差点の名前が出てないか確認しますよね。できるだけ詳しく知りたくなるんです」 。ジェンセン氏の投稿は全てが広く拡散されたわけではない。ゲインズ氏の事件でも、シェアといいねの数はせいぜい数十件程度だ。だが彼はオーディエンスを絞り込んで、事件について知っている可能性が高い人々に確実に自分の投稿を見てもらえるようにした。

ジェンセン氏はデジタル戦略のプロ。ソーシャルメディアを武器に、リーチを最大限に広げるが、警察が事件解決のためにソーシャルメディアに投資するなどという話は聞いたことがない。「組織内にスキルセットが揃っていない機関もあります」とポール・ホールズ氏も言う。カリフォルニア州検事局コントラコスタ郡支局を最近退職したばかりの元捜査官だ。「私がいた組織のFacebookページも特に活発でなければツイートもしていませんでしたし、ソーシャルメディアは活用されていませんでした。つまり、リソースの問題でもあるんです」

仮に警察署やFBIがSNS上の“尋ね人”広告や行方不明者の画像をシェアしたとしても、ジェンソン氏のようなソーシャルメディアのエキスパートが手掛ける投稿ほど注目されないのが普通だ。「体重や身長(など)あらゆる情報がアップされていますが、実際見たところで、特に若者の場合、あまり記憶に残らないんです」とジェンソン氏。「もっとマーケット的な手法で見る人を引きつけないと――動画編集とか、スクリーンショットを工夫するんです」

キャッチーな文言で感覚に訴えるジェンソン氏の説明は、思わずスクロールの手を止め、注意を向けさせることを目的としている。だが、犯人の視点から呼びかけるなどということは、警察にとっては論外だろう。犯罪のたびに、わざわざ専用ページを立ち上げる機関もほとんどあるまい――基本的には、警察官が現場で捜査して事件解決を目指す。一般市民から情報を募るのは、警察にとって裏目に出ることも多い。

Translated by Akiko Kato

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