俳優・加瀬亮が語る、芝居との出会いと音楽のこと

「本当にこじんまりとした舞台でしたし、今思えば決して上手な芝居だったわけでもないんですけど、地元のバイカーというかヤンキーだった先輩が(笑)、普段は全く見せないような表情を見せていることに対して、強烈に心を動かされたんですよね。僕は大学時代はボードセイリング(ウィンドサーフィン)部の活動に明け暮れていて、ちょうど、それが終わってぽっかりとしてしまっていた時期だったんです。自分自身も含めてなんですが、あんなに打ち込んでいた部活が終わって、スーツを着て就活をしていることに対しての違和感があったんです。『あの海で過ごした時間は一体なんだったんだろう?』って。将来のヴィジョンに対しても、いろいろ思うところがあったんだと思います」

終演後、楽屋を訪れた加瀬はその場で先輩に「自分も芝居をやりたい」と伝え、打ち上げにも顔を出した。「そこで役者の人たちが、いろんな俳優の名前や映画の名前を出して語り合っていたんですけど、一つも分からなかった」と、笑いながら振り返る。それでもめげず、先輩たちの開催するワークショップへ通いつめ、目にしたオーディションを片っ端から受けていった。そして最初に決まった舞台の現場で彼は、ある人物と運命的な出会いを果たす。


Photo = Masahiro Miki

「稽古は毎日楽しかったんですけど、出演者の中に1人だけやる気のないおじさんがいて。気になるじゃないですか。みんな一生懸命やっているのに、一体この人は何なんだろう?って。当時は僕も若かったので、思わず突っかかったんですよね。そうしたら彼が『こんな台本、大して面白くもない』なんて言うわけです。それでカチンと来て(笑)、さらに突っかかったんです。『だったら、どんな作品が面白いんだ?』って」

すったもんだの末、その「おじさん」の家へ行くことになった加瀬。部屋に入ると、そこにはミニシアターで上映しているような映画のポスターが壁一面に貼られてあった。

「その時にVHSビデオを2本貸してくれたんです。それがジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』と、エドワード・ヤンの『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』だった。この、気に食わないおじさんが一体どういう作品を『面白い』なんて言ってるんだ?と、半ば興味本位で観たんです。非常に強い衝撃を受けましたね。それまで自分は、いわゆるハリウッド大作しか観たことがなかったんです、『ベスト・キッド』とか(笑)。そんな自分のいる世界から遠い世界の話ではなく、その2本で描かれていたのは、日常の延長というか。映像も風景も含め、自分の身近で起きているような出来事を描写していることに驚きました。そこからはもう、ミニシアター系の映画をひたすら観るようになりました」

Hair and Make-up = Kenichi Hamazaki

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