俳優・加瀬亮が語る、芝居との出会いと音楽のこと

ストイックで、職人気質というイメージの加瀬だが、休日はどのように過ごしているのだろうか。そうたずねると、「いたって普通ですよ」と笑う。

「音楽や読書は好きですね。音楽ですか? ジャンル問わずいろいろ聴きますが、ザ・フォールやフェイセズ、グラハム・ボンド・オーガニゼーションなどイギリスのバンドは好きですね。フェイセズは特に初期3枚(『ファースト・ステップ』『ロング・プレイヤー』『馬の耳に念仏』)をよく聴いています。ハウンドドック・テイラー、バディ・ガイとジュニア・ウェルズのコンビ、チャールズ・ミンガスなど、ブルースやジャズなども聴いています。好きな作家は、オーストリアのトーマス・ベルンハルトや、フランスのルイ=フェルディナン・セリーヌとか。ノワールものなんかも好きで、ジム・トンプスンなどを愛読しています。すごく好きな本は原著も買って、比べることもありますね」

さて、そんな加瀬が渡辺謙やジュリアン・ムーアと共に出演した『ベル・カント とらわれのアリア』が今年11月に公開される。この映画は、1996年にペルーで起きた「日本大使公邸占拠事件」に着想を得たアン・パチェット原作のベストセラー小説を、『アバウト・ア・ボーイ』のポール・ワイツ監督が映像化したもの。南米某国の副大統領邸でパーティーが開かれ、世界的なオペラ歌手ロクサーヌ・コス(ジュリアン・ムーア)や、彼女を愛してやまない日本人実業家ホソカワ(渡辺謙)ら要人が多数集まる中、突如テロリストが乱入し彼らを人質に立て籠もる。彼らの目的は、収監された同志の釈放だったが、政府との交渉は平行線の一途をたどり、事態は長期化の様相をみせるのだった。

閉ざされた空間の中で、テロリストと呼ばれている人たちと人質が、アートや音楽を「媒介」として心を通わせていく。加瀬が演じる通訳者ゲンも、「言語」を媒介に異なる思想や国籍を持つ人々をつなげていくという、アートや音楽と同じくらい重要な役割を作品の中で担っている。

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「本編ではほとんどカットされてしまったのですが、テロリストと人質の些細な触れ合いが、最初の台本にはたくさんあって、それが僕は好きだったんですよね。価値観も立場も違う者同士が、ある種ユートピア的な世界を築いていくという。この映画に関して、よく取材で『ストックホルム症候群』という言葉が出てくるのですが、僕はその切り口はなんだかつまらないなと思っています。単に、人は心をもった存在なんだ、というほうがいいですね。もちろん、映画の中で描かれているシチュエーションは特殊ですし、僕自身テロ行為自体には賛成するつもりはありませんが、でも、物事ってどこからはじめてどう切り取ってストーリーにするかで、見え方も正義も全く変わるじゃないですか。僕らはつい、一方的な立場から『善悪』を判断してしまいがちですが、それでは割り切れない思いがある。この映画のラストカットには、そんな思いが込められていたと思うんです」

実は、完成された映画のラストシーンは脚本と大きく異なるという。

「しかし脚本とは違い、映画ではロマンスに寄った終わり方になっていました。本来のメッセージは脚本の方がより強く反映されていたと思いますね。なので、映画を観て少しでも気になった方は是非、原作を読んだり、実際の事件を調べたりしてみてほしいですね」


ベル・カント とらわれのアリア
11月15日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー


加瀬亮
1974年11月9日、神奈川県生まれ。生後まもなく渡米し7歳までアメリカ合衆国のワシントン州で過ごす。2000年にスクリーンデビュー。 2004年公開の『アンテナ』(熊切和嘉監督)で映画初主演を果たして以降、周防正行監督『それでもボクはやってない』、クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』、北野武監督『アウトレイジ』、アッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』、ホン・サンス監督『自由が丘で』、森崎東監督『ペコロスの母に会いに行く』、山田太一脚本『ありふれた奇跡』、堤幸彦監督『SPEC』シリーズなど映画を中心にテレビドラマ、CM、舞台等、メジャー、インディペンデントを問わず、国内外の作品に出演。主な受賞に第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第50回ブルーリボン賞、第32回報知映画賞がある。


Hair and Make-up = Kenichi Hamazaki

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