「世界」という「近所」に乗り出す、星野源の2019年が意味するもの

「おげんさん」は視聴者を見くびらない

と、ここまでは『Same Thing』を端緒に海外へと踏み出す星野源について書いてきたが、EPリリースと同日(10月14日)に放映されたNHKの番組「おげんさんといっしょ」(以下、「おげんさん」)も興味深く、かつ意義深い内容だった。それについても書いておこう。

3回目を迎えた「おげんさん」は、星野源がホストを務める音楽バラエティ番組。高畑充希、藤井隆、宮野真守といったレギュラー陣とのシットコム的なやりとりの妙に加え、馴染みのバンドメンバー(最新回では河村“カースケ”智康、ハマ・オカモト、櫻田泰啓、石橋英子、長岡亮介、STUTSという布陣)の演奏による生パフォーマンスもふんだんに盛り込まれた、いまどき珍しいほど贅沢な番組だ。パフォーマンスについて言うと、最新回ではゲストとして登場したPUNPEEが、主役の星野を食う勢いの名演を見せていたのが印象的だった。


「おげんさん」のいいところは、「わかりやすくあろう」という配慮をあえてぶっちぎっているあたりにある。地上波ではぎりぎり耳にしないような、ややマニアックな固有名詞もためらいなくぶち込む。

お茶の間を教育しよう、ではなく、わかる人には伝わったらいいし、わからなくてもとにかくいい音楽を楽しんでもらおう、というかたちでの、お茶の間への信頼が「おげんさん」にはある。ここでなんとなく耳にした音楽や固有名詞が、のちのち日常の中でふと思い出される瞬間さえあればこっちのものだ、とでもいうような。およそ年に一回(放送同士の間隔はもっと大きい)というペースがもったいないと思うほどに良い番組だ。


「おげんさん」番組中で紹介されたスティーヴ・レイシー

ゲン・ホシノとおげんさんのあいだで

とはいえ、「おげんさん」でもっとも重要なのは、「音楽をまじえたコントバラエティ」というフォーマットをいまやる、という気概にあるように思う。

星野源がクレージーキャッツを敬慕しオマージュも捧げていることはよく知られている。「Crazy Crazy」は楽曲もMVもまさにクレージーへのリスペクトの塊だし、「アイデア」のMVにも「シャボン玉ホリデー」(※)の面影をほんのり感じもする。

「音楽番組」ではなく「コントバラエティ」として番組を組み立て、そこにクオリティの高い音楽を織り交ぜていくというスタイルは、クレージーキャッツやドリフターズといったコミックバンドが、テレビ番組や映画を通じて、ジャズやソウル、ファンクといった海外の音楽のエッセンスを大衆に届ける役割を担ってきたことを思い起こさせる。

※1961年6月~1972年10月、1976年10月~1977年3月に放映された日本テレビ制作の音楽バラエティ。ザ・ピーナッツ、ハナ肇とクレージーキャッツ、毎回登場するゲストを交えてコントや歌、トークなどを展開。番組からは数多くのギャグが生まれ、特に植木等の「お呼びでない……これまた失礼致しました」は番組を代表するフレーズとして親しまれた。




「おげんさん」の星野は、「Pop Virus Radio」で自分の音楽をヒップホップ、R&B、そしてコンテンポラリーゴスペルなんかと並べながらプレゼンテーションしたのとは対照的に、ドメスティックな大衆芸能史をさりげなく再演し、復興しようとしているように見える。それは広い意味で視聴者にいろんな音楽やアーティストとの出会いの種を蒔きながら、カルチャーを耕そうとする企図につながっているはずだ。

もちろんミュージシャンとしての星野が活躍の場を日本の外へ拡張していくことにはとても期待したいが、同じくらい「おげんさん」の星野にも期待したい。最終的には、そのふたつの流れが合流する未来を見てみたいものだ。



<リリース情報>



星野源

『Same Thing』
配信中

1.Same Thing (feat. Superorganism)
2.さらしもの (feat. PUNPEE)
3.Ain’t Nobody Know
4.私
https://jvcmusic.lnk.to/samething

<ライブ情報>

星野源 POP VIRUS World Tour

2019年11月23日
上海  National Exhibition and Convention Center Hong Arena

2019年11月25日
ニューヨーク  Sony Hall
Special Guest MARK RONSON

2019年12月9日 
横浜  Yokohama Arena
LIVE in JAPAN 2019 Gen Hoshino × MARK RONSON

2019年12月10日 
横浜  Yokohama Arena
LIVE in JAPAN 2019 Gen Hoshino × MARK RONSON

2019年12月14日 
台北  Legacy MAX


『リズムから考えるJ-POP史』
imdkm
四六判・二百六十四頁
価格:1,800円+税
発売中

imdkm(イミヂクモ)
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ティーンエイジャーのころからビートメイクやDIYな映像制作に親しみ、Maltine Recordsなどゼロ年代のネットレーベルカルチャーにいっちょかみする。以後、京都で8年間に渡り学生生活を送ったのち、2016年ごろ山形に戻ってブログを中心とした執筆活動を開始。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージック について考察する。

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