KIRINJIが語る、新しい音楽への好奇心と「断絶の時代」に紡ぐ言葉

「killer tune kills me」に見る現在のモード

─ちなみに、アルバムの『cherish』というタイトルの由来は?

堀込:「killer tune kills me feat. YonYon」の歌詞の最後でYonYonが、“I want to cherish my tune”と歌っていて。要約すると“思い出を大切にしたい”ということ。僕はチェリッシュと聴いてぱっと思い浮かぶのは、フォークデュオくらいだったのですが(笑)、「そうか、cherishって大切にするという意味なのか。良い言葉だな」と改めて思ったんですよね。

ただ、実際にアルバムで歌われている内容は、あまり「cherish」していないというか(笑)。むしろ、「cherishな状態が欠けている世の中だからこそ、その言葉が求められている」という逆説的な内容だと思います。例えば、「『あの娘は誰?』とか言わせたい」では、華やかな曲調ですが「貧困」について歌っている。きらびやかな一方で、ものすごく寂しい現実があるということが楽曲全体のテーマになっています。

─「cherish」が欠けた状態だからこそ、その存在感が際立っているというか。ともあれ今作では、かなりメッセージ性の強い歌詞が増えましたよね。

堀込:今の世の中、純粋なラブソングを作る気にはやっぱりなれなくて(笑)。どうしたってその時の時代の空気やムードからは影響は受けます。今話したような「貧富の格差」もそうですし、思想信条の違うもの同士の断絶……ちょうどレコーディング中は、日韓関係が緊迫した時期だったんですよね。どうしても、そういったムードに影響は受けてしまう。



─今回、YonYonさんの韓国語ラップをフィーチャーした経緯は?

堀込:韓国のラップや歌モノって、パリッとしていて聴いていて気持ちいいなと以前から思っていました。その矢先に彼女がSIRUPと一緒にやっている「Mirror(選択)」をたまたまラジオで聴いて「カッコいいな」と。そうしたらある日、InstagramにYonYonさんからフォローされて。いつか機会があったらよろしくお願いしますなんて話していたら、ちょうどいい曲が出来たので「これ幸い」とばかりにお願いしました。

昔から韓国にはKIRINJIのお客さんが結構いらっしゃるので、そういう方々はもちろん、日本のポップスに興味を持っている方たちにもぜひ聴いてもらいたいと思いました。今や韓国が、「アジアン・ポップスのハブ」となりつつある。日本はもう、その役目を終えて韓国や台湾、インドネシアに重心が移動してしまったような気がしています。インディーっぽい音楽も面白い。例えばSE SO NEON(セソニョン)などは、初めて自分がブラジルのロックを聴いた時に近い感動があって。メンバーの一人、So!YoON! (a.k.a Soyoon)が最近『So!YoON!』というソロアルバムを出したのですが、それもいろんな音楽的要素が入っていてカッコいいんですよ。




─弓木さんがメイン・ボーカルのシングルというのは、実は「killer tune kills me」が初めてなんですよね?

堀込:KIRINJIのファンの方で、ライブにもよく足を運んでくださる人なら、弓木さんが歌ったり、コトリンゴさんがいた頃は彼女が歌う曲も存在していることを、ご存知だと思いますが、ラジオやテレビでシングルしか聴いたことがない人は、僕らのことを「男性ボーカル・バンド」としか思っていないかも知れないな、と。弓木さんはパーソナリティもすごく魅力的だし、ウィスパーじゃないんだけど、歌い上げてもいない。普通に歌っている声が、すごく綺麗で印象的なんですよね。こんなに素晴らしいボーカリストがいるのに世に出さないのはもったいない。ちょうど彼女も「弓木トイ」という個人のプロジェクトを立ち上げたところなので、タイミングとしてもいいかなと思いました。

─この曲の歌詞に目を向けると、終わってしまった恋を「昔夢中になって聴いたキラーチューン」になぞっています。高樹さんは別のインタビューで、「ひとつの音楽に対して、今は10代の頃のようにどハマりできないな、という気持ちを感じていた」「『あんな経験って、もうできないのかな』と、少し寂しさを感じる部分があったりして」とも語っていましたが、それって音楽以外でも感じますか?

堀込:例えば映画を観ていても、「あ、この感じは前にもあったよなあ」とか考えてしまって、以前よりも夢中になれないときがある。それって本当に良くないと思っているのですが、年齢的なものというより、山ほど映画を観てしまったり、音楽を聴いてしまったりした人特有の思考回路なのかも知れないですね。恋愛映画とかも、なかなかこの年では盛り上がりにくい(笑)。そんなふうに情熱が消えかかっていく寂しさを歌っているようにも取れるし、失恋した女性の歌とも取れる。ただし「燃え尽きかけてる中年の歌」というのが前面に出るのは問題といえば問題で……。

─(笑)。

堀込:僕が歌ってたら、そう聴こえていたかも知れないけど、弓木さんとYonYonの声だと、一気に甘く切ない素敵なポップスになるのが面白いですよね。

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