モーターヘッドの過激思想が花開き、パンク/メタルの神となった1979年を再検証

アルバムはテイラーのマシンガンのようなドラミングで幕を開ける。レミーは肉厚でロカビリー調のベースライン(ディストーションの効いたサウンドはギターのように聞こえる)で応援し、クラークの雷雲のようなギターがミックス全体を覆っていく中、「ハートに響くノイズは良質かつラウドでなくてはならない」というレミーのマニフェストが響きわたる。モンスター級のインパクトを自覚してか、同曲では5分強の間にイントロの部分がさらに2回登場する。メタリカがメガデス、スレイヤー、アンスラックスの3バンドを迎え、2011年にヤンキー・スタジアムで開催したBig Fourコンサートで、4組が一緒に「オーヴァーキル」を演奏したことは、同曲が彼らの世代に与えた計り知れない影響を物語っている。

「あんなプレイはそれまで聴いたことがなかった」同曲におけるテイラーのドラミングについて、ラーズ・ウルリッヒはそう語っている。「完全にぶっ飛ばされた。しかもその凄まじい勢いが最後まで衰えないんだ。レミーのヴォーカルは唯一無二さ。歌詞もクレイジーで、パンクとロックとメタルの要素が融合してる。凶悪化したアニメの世界みたいで、あの曲の持つエネルギーを倍増させてるんだ」



『オーヴァーキル』の他の曲群は、当時のバンドの幅広いスタイルを反映している。しなるようなロックンロールのリフが印象的な「ステイ・クリーン」の歌詞は、彼が残した中でも最も哲学的なもののひとつだ(「やがて誰もが去り お前はひとりになる / 孤独なお前を止めることは誰にもできない」)。独特の歌唱法が光る強靭な「アイ・ウォント・ペイ・ユア・プライス」(「お前の尻拭いをさせられるのはごめんだ」)、プリンスの「イフ・アイ・ウォズ・ユア・ガールフレンド」を思わせるセクシーな「アイル・ビー・ユア・シスター」(レミーはこの曲をティナ・ターナーに歌ってもらいたかったと語っている)、ZZトップの「タッシュ」をアップグレードしたかのような「ノー・クラス」、どんなテンポで演奏しても様になるであろうナンセンスなロック「メトロポリス」まで、問答無用の名曲がずらりと並ぶ。そして「テア・ヤ・ダウン」「リム・フロム・リム」「ダメージ・ケース」には、レミー流口説き文句の数々が登場する。どれひとつとして女性をメロメロにしそうにはないのだが、永遠の不可解なロマンチスト、そしてイボの魅力の伝道師である彼は、そういう声を黙らせるかのように「リム・フロム・リム」でこう歌っている。「俺はベッドで自分を恥じたりしない」

彼が2015年に逝去する直前、本誌の名物企画であるMy Life in Songs(彼の回のみMy Life in 15 Snarls(がなり)と改題されている)に登場した際に、彼は自身のお気に入りの曲として「オーヴァーキル」と「ステイ・クリーン」を挙げている。「『オーヴァーキル』は多くのメタルバンドにカバーされたが、俺たちの影響はほとんど感じられない」彼はそう語っている。「俺たちも今やベテランだからな。ああいう形で敬意を払ってもらえるのはありがたいけど、俺たちは今も現役なんだ。最近も曲作りで忙しいしな」彼は「ステイ・クリーン」についてはこう語っている。「必ずしもドラッグやアルコールのことを指してるわけじゃない。ただ『クリーンでいること』についての曲さ。メル・トーメの『カミン・ホーム・ベイビー』をパクろうとしてたんだけど、結局全くの別物になっちまった」彼によると、ギターソロの部分はエディーがウォーミングアップをしているところであり、ジミー・ミラーはテイクのやり直しを認めなかったという。

約6カ月後、モーターヘッドは『オーヴァーキル』よりもややヘヴィな『ボマー』をリリースする。アルバムの幕開けを飾るアンチ・ヘロインを掲げた「デッド・メン・テル・ノー・テイルズ」で、レミーは開口一番「これで決まりだ!」とシャウトする。クラークのギターソロは上空のアンプから降り注ぐ炎のようであり、テイラーはせわしないドラミングで必死に応戦する。スローでヘヴィな「ロウマン」では悪魔のような目をした警察官を告発し、「スウィート・リヴェンジ」ではクラークがゆったりとしたブルージーなリフを炸裂させ、「ポイズン」にはレミー史上屈指の名ライン「俺は自らの人生を毒した…嫁をもらうよりはマシさ」が登場する。メタリカはレミーの50歳の誕生日パーティーの場で「ストーン・デッド・フォーエバー」をカバーしており、当日の彼らのセットリストの3分の2は1979年発表の曲が占めていた。




『ボマー』に収録された「オール・ジ・エーセズ」は、翌年に発表されるバンド史上最大のヒット曲「エース・オブ・スペーズ」の雛形ともいえる。「地獄に希望は存在しない / 何者も俺たちを引きずり落とすことはできない」というレミー節が炸裂する、アルバムのオープニングトラックにしてタイトル曲の「ボマー」がハイライトであるという点は、モーターヘッドのお決まりのパターンだ。不可解なことに、彼らの最高傑作のひとつである「オーヴァー・ザ・トップ」は本編ではなくボーナストラックとして収録された。強烈にキャッチーな同曲が本編に収録されていれば、『ボマー』は『オーヴァーキル』と双璧をなす完全無欠のアルバムとなっていただろう。

「『ボマー』は俺が初めて戦争について書いた曲だ」My Life in 15 Snarlsのインタビューで、レミーはそう語っている。「当時レン・デイトンの『爆撃機』を読んでたんだ。イギリス軍が標的とは違うドイツの街を誤って空爆してしまい、両国の争いが激化してしまうっていう話だ。すごくいい本だから、君も読むといい」最高傑作のひとつと自認している「オーヴァー・ザ・トップ」については、彼はこう語っている。「気が狂っちまうことについての曲だ。8年間アシッドをやってた俺は、気が触れるってことの意味を熟知してるからな」

Translated by Masaaki Yoshida

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