性犯罪を多数担当した元検事補が今でも後悔する「プレッピー殺人事件」

ロバート・チェンバーズ・Jr.の裁判で、資料を抱えて出廷するリンダ・フェアスタイン氏(Photo by NY Daily News/Getty Images)

元ニューヨーク市地方検事補のリンダ・フェアスタイン氏は、エイヴァ・デュヴァーネイ監督のNetflix作品『ボクらを見る目』でフェリシティ・ハフマンが自分を演じた後、自分の経歴が問題視されていることに気が付いた。

数十年にも渡る性犯罪捜査班での彼女の仕事ぶりは、『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』のヒントにもなったが、彼女は90年代初期、セントラルパーク・ファイブ――黒人とラテン系の5人のティーンエイジャー――を刑務所送りにしたうちの1人でもある。5人はレイプ容疑で収監されたが、のちに冤罪だったことが判明した。

5人は2002年、マティアス・レイズという男性が自白したため、釈放された――DNAの証拠もレイズの犯行を裏付けていた。だがこの夏、デュヴァーネイ監督の番組がスタートしたとき、フェアスタイン氏は再び世間の注目にさらされ、火の粉が迫るのを感じていた。署名活動やSNSキャンペーン(#CancelLindaFairstein:リンダ・フェアスタイン氏を罷免せよ)が盛んに行われ、Simon & SchusterやPenguin Random Houseといった出版社に彼女の名前を作家リストから削除するよう求めた。実際にPenguin Random Houseの子会社Duttonはこれを実行した。また、彼女の母校ヴァッサー大学の役員をはじめ、いくつかの要職を追われた。



デュヴァーネイ監督のドラマシリーズでは、フェアスタイン氏はあえて悪役として描かれている。だがAMCの全5話の新作ドキュメンタリー『The Preppy Murder: Death in Central Park(原題)』の彼女はもっと人情深い。それは恐らく、自分は被害者の味方だと彼女が考えているからだろう。18歳のジェニファー・レヴィンさんが殺された事件では、彼女は近年最も激しく中傷誹謗された被害者の側に立って戦った。セントラルパーク・ファイブの事件では、レイプ被害者トリーシャ・メイリさんのために正義のマントを手にした――。だが彼女は、メイリさんが唯一の被害者ではなかったことを見落としていた。それが問題だ。それでも、『The Preppy Murder』は善悪に関しては白黒はっきりしている。レヴィンさんの事件でのフェアスタイン氏は、性差別や女性蔑視に直面して、世間を相手に無茶な戦いを挑んだ地方検事補だった。この番組は世間の嫌われ者という現在の立場とは相容れない、渦中の人物の別の一面に焦点を当てている。

Translated by Akiko Kato

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