性犯罪を多数担当した元検事補が今でも後悔する「プレッピー殺人事件」

フェアスタイン氏の後悔

気が付くとフェアスタイン氏は、チェンバーズと彼の弁護団から何度も妨害を受けていた。彼は証言台に立たなかったため、反対尋問で麻薬常習と強盗を明らかにすることができなかった。さらに、レヴィンさんのデニムジャケットから採取したDNA検査の結果も法廷に提出することができなかった。ジャケットからはレヴィンさんの血液と唾液も検出されていた。フェアスタイン氏は、チェンバーズがジャケットでレヴィンさんの口を覆って窒息死させたと考えていた。だが当時DNA検査はまだ初期段階で、裁判所はDNAを証拠として採用しなかった。

その頃、チェンバーズはまるでケネディ一族のメンバーのような出で立ちでニューヨーク・マガジンの表紙を飾っていた。彼の弁護士ジャック・リットマン氏は、レヴィンさんが「セックス日記」をつけていたという嘘の情報を報道陣に流した。結局、陪審の審議は長引いていつまでたっても評決に至らず、レヴィンさんの遺族は、無効審理となるなら裁判を続けたくない、と語った。チェンバーズは司法取引に応じて第1級故殺を認め、懲役5~15年の刑を言い渡された。

ドキュメンタリーの中で、フェアスタイン氏は何度もレヴィンさんを擁護した。今でも彼女は、若い女性のために正義を果たせなかったことだけでなく、そもそも彼女を救えなかったことを悔やんでいる。最終話の終わりにフェアスタイン氏はニューヨーク・シティの公園へ足を踏み入れ、1986年当時10代だったレヴィンさんが遺体で発見された木に視線を向けた。「我々はみな、母親から気をつけるように言われていたモンスターや知らない人たちが木の陰から飛び出してくるものだと考えています――でも実際は、モンスターは私たちの周りにいるんです」と彼女は淡々と語る。「朝起きて、何度もこう考えました。もしジェニファー・レヴィンさんの手を取って、『あの男と公園に行っちゃだめ』と言うことができたら、と」

フェアスタイン氏がセントラルパークに佇みながら過去を振り返る中、いわゆるセントラルパーク・ファイブ事件と彼女の関係にも思いをはせずにはいられない――単に場所のせいだけではない。いずれの事件も被害者は白人女性だった。まずはレヴィンさん、その後がトリーシャ・メイリさん。そして、どちらの事件でもフェイアスタイン氏は被害者女性の味方だった。だとしても、セントラルパーク・ファイブ事件では5人の男性が刑務所に送られ、人生を奪われた。その責任はフェアスタイン氏にある。

Translated by Akiko Kato

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