ラブリーサマーちゃんと学ぶ、「現実逃避の音楽」ドリーム・ポップの歴史

―具体的に、シガレッツのどの辺が刺さったんですか?

ラブサマ:まあ、ああいう音楽は好きですよね(笑)。最初に聴いた時は、スロウダイヴっぽいなと思いました。

黒田:へー、どのあたりが?

ラブサマ:曲にもよりますけど、スロウダイヴってマイブラほど暴力的でもないじゃないですか。シューゲイザーっていうよりもドリーム・ポップに近いクリーンな音に重ねて厚みを出すというか。ただ、シガレッツはスロウダイヴと比べて、そこまでコード感が寂しくなりすぎないですよね。ドリーミーな音作りをしているから悲しく聴こえるけど、テンポを早くしたら全然ポップな感じになると思う。



黒田:わかる、曲自体はめちゃくちゃポップなんだよね。ロネッツとかあの辺りのオールディーズっぽさを感じるというか。

ラブサマ:あとは歌詞が……back numberっぽくないですか?

黒田:そうなの?(笑)。

ラブサマ:もちろん別物だと思いますけど、シガレッツも一貫して過去の恋について歌ってますよね。バンド名も「終わったあと」だし、ずっと昔のことを回想している……back numberも確か過去の恋愛に絞って歌詞を書くバンドだった気が……。
    
「思い出せなくなるその日まで」みたいなやつですよね(笑)。グレッグの女性遍歴は結構すごそう、そんな曲をいくつも書くくらいだし。

黒田:過去のインタビューでも、そういう話をオープンに打ち明けているよね。

―初期の代表曲「K」については、「当時の僕は遠距離恋愛をしていて、相手の女の子が地元に戻ってしまう前に、NYで過ごしたロマンティックな1週間について書いた曲なんだ」と話しています

ラブサマ:あははは! 笑っちゃった。最高ですね。



黒田:同じソングライターとして、そういう歌詞ってどう思う?

ラブサマ:私は自分の性格もあって、歌詞に幅をもたせちゃう。村上春樹方式ですよ。「○○かもしれないし、違うかもしれない」みたいに言い方をボヤかして、断定したりクリティカルなことを言うのは避けています。そうしないと、あとで自分の気持ちが変わったときに整合性がとれなくなりそうだから。

黒田:なるほど。

ラブサマ:グレッグはきっと、自分の気持ちに素直なんでしょうね。私はあんなふうに明け透けな歌詞を書いたりできないです。だから、「K」みたいな内容を歌っているのは尊敬しますよ。仮に自分が1週間スペシャルな経験をしたとして、曲の隅にちょろっと入れるならまだしも、ここまでわかりやすく書いたりします? しかも(取材で)そういう裏話も明かしちゃうんですよ。勇気ありますよね。

黒田:昔はシンガーソングライターといえば、私生活をあからさまに歌う人が多かったでしょ。でも最近は、(作曲の)とっかかりは個人的な体験でも、誰が聴いても解釈の幅がもてるようにしている人が多いような気がする。グレッグは1982年生まれだから……37歳か。彼は自分の恋愛遍歴を曲に投影させているわけで、いまどきトラディショナルで珍しいよね。ジョン・レノンがヨーコへの愛を歌うようにモチーフとなっている人がいる。その生々しさがセクシーさをもたらしているのかな。

ラブサマ:めっちゃ生々しいですよね。


シガレッツ・アフター・セックス、写真中央がグレッグ・ゴンザレス (Photo by Ebru Yildiz) 

黒田:少し前、OGRE YOU ASSHOLEの出戸学さんにインタビューしたとき、「歌詞の抽象度を高めれば高めるほど、結果としてエロスに近づいていく」と話していたんだよね。彼らのニューアルバム『新しい人』って、シンプルで抽象的なのにすごくエロいんだよ。

ラブサマ:へー、面白い!

黒田:オウガが抽象的な「概念」としてのエロをを突き詰めているのに対し、シガレッツの表現は「具象化」したエロって感じがするよね。オウガの絵がピカソだとすれば……

ラブサマ:シガレッツは裸婦画みたいな感じがしますね。

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