ラブリーサマーちゃんと学ぶ、「現実逃避の音楽」ドリーム・ポップの歴史

黒田:さらに話を続けると、もう一つの代表格であるマジー・スターが「ドアーズ以来、最高のサイケデリックバンド」と呼ばれているように、サイケも大きなルーツ。80年代初頭のLAでは、60年代サイケに影響を受けた「ペイズリー・アンダーグラウンド」という動きが盛んで、バングルス、スリー・オクロック、ドリーム・シンジケートといったバンドが登場して、プリンスの『Around The World In A Day』(85年)にも影響を与えるほどだった。マジー・スターの片割れことギターのデヴィッド・ロバックも、もともとはレイン・パレードというバンドの一員で、このシーンの中心にいたんだよね。

―彼らやギャラクシー500、ヨ・ラ・テンゴは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド直系のフォロワーともいえますよね。ドリーミーかつフォーキーな歌と演奏は、シガレッツとも音楽的に近い。

黒田:そして、現代のドリーム・ポップを代表するバンドといえばビーチ・ハウス。『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』など映画音楽の巨匠、ミシェル・ルグランを叔父に持つヴィクトリア・ルグランの中性的な歌声や、コクトー・ツインズ直系のギターサウンドなど、シガレッツとの共通項も多い。




―先生の話が長くなってしまいましたが、ラブサマちゃんはコクトー・ツインズとか好きですか?

ラブサマ:歌がめっちゃ上手いじゃないですか。初めて聴いたときビブラートのかかり方にビビっちゃって(苦笑)。高校3年のときかな、当時の私は歌が上手いなんて最悪だと思ってたんですよ。

黒田:すごく90年代マインドな話をしているね(笑)。

ラブサマ:そういう競争がイヤで音楽を聴くようになったのに、もう上手いヘタの話なんかしたくないと思って。そこから数年くらい敬遠しちゃったけど、ディスクガイドに載ってる作品を片っ端から聴いてた時期に、サウンドプロダクションの角度から良さに気づきました。

黒田:今の話を聞いて思ったけど、ビートルズやパンクがそうだったように、影響力の大きな音楽って「これなら俺たちにもできる!」と思えるものだったりするじゃん。でも、コクトー・ツインズはそういう音楽ではないのかもしれないね。エリザベス・フレイザーが好きでも、彼女のように歌いたいと思う人はそこまでいなさそう。

ラブサマ:うん、思えない!

黒田:それなのに、ここまで影響力があるのは不思議。どちらかといえばビョークに近いのかな。誰もビョークにはなれないけど、彼女に憧れて音楽を始めた人はたくさんいるわけで。



コクトー・ツインズを輩出した4ADが1986年に再発した、ブルガリア国立放送合唱団『Le Mystere Des Voix Bulgares Vol.1』より。エリザベス・フレイザーの歌唱スタイルは、ブルガリアン・ヴォイスの影響も大きいとされている。

―そう言われると、古くはニコやジェーン・バーキンから、ホープ・サンドヴァル、ヴィクトリア・ルグランなど崇高なカリスマばかりですね。でも演奏面に限れば、ドリーム・ポップは腕を競い合うのと真逆の音楽じゃないですか。テクニックよりも質感やムードのほうが大事というか。

ラブサマ:たしかに! だいたい単音リフだし。

黒田:ロビン・ガスリーのギターを再現してみたいと思う人は結構いそうだね。スロウダイヴやライドも突出した天才肌がいるわけではないけど、全員でいい音楽を作ってる感じがする。マイブラはケヴィン(・シールズ)が突出しまくっているけど(笑)。

―80年代にドリーム・ポップが出てきたあと、90年代にシューゲイザーが勃興したのも必然だったんですかね。パンク的発想でシューゲイザーが生まれたというか。

ラブサマ:あの浮遊感を凡人が奏でるためにがんばった結果なのかも。シューゲイザーはまだ真似しやすいかもしれないですよね。デカイ音を出したかったら、ペダルを買えばいいだけだし(笑)。それがなかなか難しかったりもしますが……。

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