―ここ数年はまたドリーム・ポップが流行ってる感じがしますね。シガレッツもそうだし、最近だとクラム(Crumb)の『JINX』、ボディウォッシュ『Comforter』とかよかったです。黒田:4ADから出た
ディアハンターや
ビッグ・シーフに、
ジェイ・ソム、ダイヴ(DIIV)など、2019年もいいアルバムが多かったよね。あと、まだ音源が1曲しか配信されてないけど、ドラッグ・ストア・ロメオズというロンドンの男女3人組も、ビーチ・ハウスやポーティスヘッドを彷彿とさせて期待大。日本でもPELICAN FANCLUBや、ロビン・ガスリーにリミックスを提供してもらったLuby Sparks、
THE NOVEMBERSの小林祐介くんが新作をプロデュースしたpollyなど、コクトー・ツインズに影響を受けたバンドが増えている。
―2000年代後半にチルウェイヴが流行ってから、メロウでアンニュイな音楽の流れがずっと続いてる気もしますね。そこからラナ・デル・レイが登場して、初期のザ・ウィークエンドがコクトー・ツインズをサンプリングして、ドレイクの『Take Care』(2011年)も妙にドリーム・ポップ的な内容で……そういう流れがアンビエントR&Bを通過して、今日のビリー・アイリッシュまで受け継がれているともいえるわけで。黒田:それと今になって思うのは、ヴェイパーウェイヴもドリーム・ポップっぽくない?
ラブサマ:あー、今言われて気づきました。ヴェイパーウェイヴが好きな人たちは、ドリーム・ポップというより特異な存在として聴いてたかもしれないけど、たしかに似ているところはありそう。(音楽的には)似たような背景をもつチルウェイヴ的なアプローチの人も多かった。チルウェイヴには、ドリーム・ポップ/シューゲイザーと共通する部分があったじゃないですか。みんな陶酔したかったのかもしれないですね。
黒田:陳腐な言い方をすると、世の中がクソだから逃避したくもなるよね。最近の
シティポップ・ブームも背景は同じだと思う。バブルの時代を呼び起こしたい、架空の都市に逃げ込みたい、みたいな。
ラブサマ:陶酔的な音楽が求められるのは、そういう時代背景も関係あるんでしょうね。
ヴェイパーウェイヴの先駆けとなった、MACINTOSH PLUSのアルバム『Floral Shoppe』(2011年)より―ドリーム・ポップのニーズが高まっているのも同様の背景があるんでしょうね。そのなかで、シガレッツの独自性ってどこにあると思いますか?黒田:セックス逃避かな。快楽のなかに潜り込もうという音楽。
―(苦笑)。ラブサマ:そういう男女の愛もそうなんですけど……シガレッツの音楽って「You & I」じゃないですか。歌詞を読んでも、この世界には二人しかいない。「私と誰か」だけの世界観って現実逃避にぴったりですよね。外野もいないわけだし、今の社会はクソだっていうのから一番遠く離れたところにいるわけだから。グレッグは二人の間に関係しない限り、「安倍が、トランプが」とか絶対に歌わないじゃないですか。
黒田:しかも、普通のラブソングは「あなたと私」だけど、彼らのセックスソングはそこすら融解して、ほぼ一つみたいになってる感じがする。そんなふうに捉えると、シガレッツの音楽はエスケーピズムの極北とも言えそうだね。
―海外ではドリーム・ポップを語るとき「コクーン(繭)」って表現がよく使われてますけど、繭に包まれるような感じというか……。ラブサマ:うん、すんごいします! その感覚がシガレッツの音楽をドリーミーにしているのかも。
黒田:「シティ」よりもっと狭い単位として「コクーン」はしっくりくるね。究極のコアというか。