史上最高の「クリスマス・アルバム」トップ25

21位 ボブ・ディラン『クリスマス・イン・ザ・ハート』(2009年)

『クリスマス・イン・ザ・ハート』というタイトルは、まったく予想外かつ奇妙なこのアルバムにぴったりだ。というのも、マイクに向かうディランの声はクリスマスとはかけ離れているから。でも実際には、このしわがれたバリトン声が34作目のスタジオアルバムである同作に従来の価値観を覆す魅力を与えているのだ。クリスマス・ミュージックほど歌唱力がモノを言う音楽はないけど、「The First Noel」のようなクリスマス・キャロルや「Christmas Island」のような戦後のポップチューンをストレートかつ誠実に歌うことで、ディランは新しい聴き方を提案している。ロス・ロボスのデイヴィッド・イダルゴやギタリストのフィル・アップチャーチらミュージシャンに支えられながら、ディランは本物のノスタルジーと淡い繊細さを込め、昔のアメリカ音楽に敬意を示しながらも自らの物語の一部として解釈している。



20位 『New Wave Xmas: Just Can’t Get Enough』(1996年)

レコードレーベル、ライノ・エンタテインメントによる1980年代のニュー・ウェーヴ コンピレーションアルバム。『New Wave Xmas: Just Can’t Get Enough』は、UKの変わり種クリスマス・シングルとキャンパスラジオから流れてきそうな新曲のどちらかに分類できる楽曲をバランスよく配した、楽しくて一風変わったオルタナティヴポップ満載のアルバムだ。まさに、冬休み前の最後のイベントにぴったりの1枚。同作には、ザ・ポーグス&カースティ・マッコールの「ニューヨークの夢」とプリテンダーズの「2000 Miles」といった雪景色を想起させるロマンチックな悲しい名曲が2つ収録されている。さらには、マシュー・スウィートとバズ・オブ・デライトの「Christmas」や、クリス・ステイミー・グループの「Christmas Time」のような華やかでキュートな楽曲、ガールフレンドを狙うサンタへの嫉妬を歌ったゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの「Santa’s Beard」などのコメディふうの楽曲もある。デヴィッド・ボウイとビング・クロスビーが異色の共演を果たした伝説的な「Peace On Earth/Little Drummer Boy」を聴きながら、ふたりの色褪せない魅力を体感してほしい。あと、キャプテン・センシブルのマイナーな1984年のUKヒット曲「One Christmas Catalogue」を聴きながらの寝落ちには要注意。シンセロックを連想させる壮大な名曲で、良くも悪くもクリスマスを通じて年月の流れを感じさせてくれるあらゆる方法が描かれている。

19位 シーロー・グリーン『Cee Lo’s Magic Moment』(2012年)

音楽オーディション番組『ザ・ヴォイス』が火付け役となってアメリカが愛するファンクレジェンドとなった、笑顔が目印のシーロー・グリーン。そんな彼の愛すべき『Cee Lo’s Magic Moment』は、難しいことを考えずに楽しめるアルバムだ。同作でシーローは、本来はキリスト教の教会一致運動的意味を持つ楽曲を変えている。クリスティーナ・アギレラがジャジーな「Baby, It’s Cold Outside」でスウィングするなか、「ベイビー外は危険だ/タクシーだって駐まってくれない」というフレーズでシーローは都会的なリアリズムを醸し出している。ザ・マペッツと共演した「All I Need Is Love」には、ヒップホップ・ソウルふうにしたセサミストリートの名曲「Manamana」が挿入されているし、超スタイリッシュな「Merry, Christmas Baby」では、ロッド・スチュアートとルイジアナ州ニューオーリンズ出身のトロンボーン奏者、トローンボーン・ショーティとの共演を果たした。「Mary, Did You Know?」では神聖なBメロのソロをいとも簡単にこなし、宗教曲ではないが、ジョニ・ミッチェルのお馴染みの名曲「River」のさらに感動的なバージョンも披露している。シーローとサンタの共通点は、大きなお腹だけじゃない。シーローは、みんなに何か素敵なプレゼントを用意しているんだ。



18位 シー&ヒム『A She & Him Christmas』(2011年)

ちょっとダークなピクシーガールズドリームのないクリスマスなんて想像できない。ズーイー・デシャネルとM・ウォードは、クリスマスの楽しいムードに妖精の要素をちょうどいい具合に振りかけてくれる。シー&ヒムのほかの作品同様、『A She & Him Christmas』にはストレートなエレガンスがある。ウォードの豊かなギター、ピアノ、あるいはウクレレのサウンドと、デシャネルのレトロでメランコリックな歌声(伝説的スタジオドラマーのジム・ケルトナーがサポートで2曲参加している)。ビーチ・ボーイズの「クリスマス・デイ」のカバーは鐘の響きのように澄んでいて、新雪を照らす陽射しのようだ。「ブルー・クリスマス」を歌うデシャネルはカントリーモード全開だし、「I’ll Be Home For Christmas」の歌声は、長引く季節性情動障害に悩む、アンドリューズ・シスターズ(訳注:1930年代から1960年代に活躍したアメリカの3人姉妹によるコーラスグループ)を想起させる。もちろん、いい意味で。



17位 『Christmas on Death Row』(1996年)

シュグ・ナイト時代のデス・ロウ・レコードの影響力がピークに達していた頃にレーベルのメンバーが集まって制作したコンピレーションアルバム(レコーディングの前年にレーベルを去ったドクター・ドレーは不参加)。意外にも『Christmas on Death Row』では、ギャングスタ・ラップ特有の腹黒さは控えめで、よりスピリチュアルな高揚感を感じさせるストレートな作品だ(ささやくように歌うDanny Boyの「Peaceful Christmas」をチェック)。6 Feet DeepやGuessなどのグループは、定番クリスマス・ソングのR&Bバージョンを真面目にカバーしている。とは言っても、ザ・ドッグ・パウンドの「I Wish」は2パックふうの軽快なメッセージソングだし、スヌープ・ドッグが参加している唯一の楽曲で「クリスマスの初めの日、地元のダチが袋いっぱいの瞬間接着剤をくれた/ゆっくり吸えよって」というフレーズがある「Santa Claus Goes Straight to the Ghetto」は、歴史に名を残す名曲だ。



16位 カーペンターズ『クリスマス・コレクション』(1984年)

1978年発売のカーペンターズ初のクリスマス・アルバム、『クリスマス・ポートレイト』は百万部以上の売り上げを達成した。それ以来、クリスマスプレゼントは新車のボルボ! みたいな光景が当たり前の富裕層が暮らす郊外では、アン・マレーの『Anne Murray’s Christmas Album』と互角に闘ってきた。1984年版の『クリスマス・コレクション』は2枚組に拡大され、何となく恐ろしい陽気さとともに過度の感傷主義が吹雪のように襲ってくる。クリスマスはカレン・カーペンターが歌にするためにあるように聴こえてくるのだ。カレンのしっとりとした歌声は、トナカイが描かれたセーターみたいに「Sleigh Ride」と「What Are You Doing New Year’s Eve」に合う。リチャードのソフトロック寄りの音楽制作方法と粘っこいオーケストラアレンジも悪くない。1940年代の浮かれ騒ぎを誇張した、暖房が効きすぎの70年代のリビングルームを彷彿とさせる。



Translated by Shoko Natori

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