史上最高の「クリスマス・アルバム」トップ25

10位 エラ・フィッツジェラルド『スウィンギング・クリスマス』(1960)

アルバム『スウィンギング・クリスマス』の最初を飾る「ジングル・ベル」がかかるやいなや、ジャズのファーストレディことエラ・フィッツジェラルドは、ソリを引く馬がかわいそうになるくらい次々と雪山を越えていくような身軽さでスウィングする。リスナーまで爽快な気分にしてくれるこの名盤は、1960年の夏に作曲家フランク・デ・ヴォール(代表作のひとつにドラマ『ゆかいなブレディー家』のテーマがある)が指揮するオーケストラとともにレコーディングされた。「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow」や「Winter Wonderland」などでは、クリスマスという弓を星空に向かって放つように母音を伸ばして歌い、最高に気分がいい時は歌詞に「!」がつくところを勢いよく発音している。



9位 『Soul Christmas』(1968年)

アトランティック・レコード所属のR&B界の一流アーティストが集結した1968年発売の名盤。ロックの偉大なクリスマス・アルバムが新しい方向性で遊びながらも伝統に忠実であり続けるなか、『Soul Christmas』は遊びと伝統のバランスを完璧に体現している。オーティス・レディングの疲労感漂うスローな「ホワイト・クリスマス」と、自信たっぷりの南部ふう「Merry Christmas Baby」が収録されているかと思うと、カーラ・トーマスはお馴染みのヒット曲「Gee Whiz」を暖炉がぴったりの印象的な「Gee Whiz, It’s Christmas」にアレンジしている。そして忘れてはいけないのが「俺はサンタじゃない/だってサンタは1年に1回しか来ないから/ディア、俺は君が呼べばいつでもプレゼントを持って駆けつけるよ」とクラレンス・カーターが歌う名曲「Back Door Santa」だ。



8位 ビング・クロスビー『ホワイト・クリスマス』(1986年)

クリスマスにイエス・キリストが欠かせないのと同じように、クリスマス・ミュージックといえばビング・クロスビーだ。1941年発売のアイルランド系アメリカ人のクロスビーによる、ユダヤ人作曲家アーヴィング・バーリンの夢見心地なバラード「ホワイト・クリスマス」のカバーは5000万枚ほどの売上を記録し、スティッフ・リトル・フィンガーズからニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックにいたるまで、すべてのアーティストがカバーするほどだ。リリースからおよそ70年が経ったいまも、ヴォーカリストとしてのクロスビーのスタイルは、エレガントなリラックス感と独特なセンチメンタリティのお手本であり続けている。1945年に発売されたクロスビーのアルバム『Merry Christmas』は1940〜50年代にかけてのレパートリーを拡大した結果、1986年に『ホワイト・クリスマス』として再発売されたのだ。同作には賛美歌「Faith of Our Fathers」のようにアイルランド系カトリックらしい楽曲や、軽快な「Christmas in Killarney」もあれば、ハワイアンな「Mele Kalikimaka」(アンドリューズ・シスターズと楽しそうに共演している3曲のひとつ)も収録されている。でも当然ながら、最高傑作はクロスビーがしっとりとしたソロヴォーカルで見事に自分のものにしている「Silver Bells」、もしくは「クリスマスをわが家で」だ。これこそが優れた歌唱力というもの。気に入らないなら、ほかをあたってほしい。



7位 ビーチ・ボーイズ『クリスマス・アルバム』(1964年)

初期のビーチ・ボーイズには、足の健康に関する認知度を上げるためのイベント、ナショナル・ポディアトリスト・レコグニション・デーくらいマイナーなイベントもパーティに変えてしまう力がある。要するに、間違いなくクリスマスを盛り上げてくれるのだ。1964年の『クリスマス・アルバム』には、セーター姿のメンバーの笑顔があふれている。同作に収録されている6つのオリジナル曲のなかでも最高なのは、ダークなのに笑える「Santa’s Beard」だ。マイク・ラヴが5歳の弟を連れてサンタに会いにいくのだが、その子がコットン製のサンタの白いヒゲを引っ張り、サンタの正体を知ってがっかりする、という内容だ。そのほかには、明るい「Little Saint Nick」、リライトバージョンの「Little Deuce Coupe」、ジャジーな「フロスティ・ザ・スノウマン」」など、実験的で遊び心ある楽曲が収録されている。オーケストラバージョンの「ホワイト・クリスマス」と「ブルー・クリスマス」ではブライアン・ウィルソンが感動的なヴォーカルを披露しており、名盤『ペット・サウンズ』の到来を予感させる。



6位 ルイ・アームストロング&フレンズ『The Best of Christmas Collection』(2003年)

想像する限り最高のクリスマス・パーティの主催者であるルイ・アームストロングがメル・トーメ、ダイナ・ワシントン、デューク・エリントン、レナ・ホーンら友人たちとレコーディングした楽曲の最新コンピレーションアルバムは、リラックス感漂う陽気さに満ちている。クリスマス・イブに長旅のあとでイルミネーションが輝く実家に帰ってくるように、どの曲もどこかで聴いたことのある懐かしいものばかりだ。招かれた友人たちのなかでも最高の栄誉にあずかるのは、スタイリッシュな「The Christmas Song」を歌うメル・トーメ。でも「Cool Yule」、「Christmas in New Orleans」、「Zat You, Santa Claus?」などでは、主役はサッチモだ。アルバムのハイライトはアームストロングが「みんな午前3時を過ぎても起きてるつもりだ/ライトをつけたクリスマスツリーみたいに」とうなるように歌う陽気な「Christmas Night in Harlem」。歌い終わったあとは、パーティの主役にふさわしく、ウィンクしながらとびきりの笑顔を向けてくれる。

5位 『A Motown Christmas』(1973年)

「ほんとにママがサンタにキスしてるのを見たんだ/パパに言いつけちゃうぞ!」1970年代の可愛すぎるマイケル・ジャクソンが信じようとしない兄弟たちに向かって言うこのセリフは、クリスマス・ポップミュージック史上もっともキュートな瞬間を描いている。1973年の『A Motown Christmas』のほかの収録曲だってかなり最高だ。モータウンはミラクルズ、スプリームス、ジャクソンズ、テンプテーションズ、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダーらの名曲を厳選し、ミラクルズのグルーヴィーな「ジングル・ベル」、ワンダーの美しい「What Christmas Means to Me」、さらには教育的見地からも優れたスプリームスの「Children’s Christmas Song」(日曜日の合唱の先生に扮したダイアナ・ロスが子供合唱団を指揮している)など、数多くのハイライトが満載だ。1999年にSpotifyから再発売されたバージョンは、ベトナム戦争時代の哀しみを描いたカントリーふうの、マーヴィン・ゲイの「I Want to Come Home for Christmas」で終わっており、モータウンの人種差別撤廃精神に見事に体現している。



Translated by Shoko Natori

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