アメリカの
HIPHOP界でも、かつては心理療法を否定する傾向がありました。特にアフリカ系アメリカ人は、貧困のためにセラピーを受けられない、セラピストに白人が多いため避けてしまう等の問題がありましたが、それに加えて
HIPHOPの「強い男性」の表現、そこからくる「強い自分にはセラピーなど必要ない」という姿勢があったのも原因です。しかし、昨今では、ドレイク、キッド・カディ、
Logic等をはじめとして、自分の弱さを表現するアーティストが数多く登場してきました。ケンドリック・ラマーの「
i」は、製薬会社のうつ病啓発キャンペーンにも提供されています。
前回、
女性の方がうつ病に罹患する割合が高いという話を書きましたが、それが自殺死亡率ということになると男性の方が高く、その比率は概ね
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1になります。男性の方が、うつ病等の症状が重篤にならないと精神科を受診しない傾向にあることもその一因ですが、それには「弱音を吐いてはいけない」などに代表されるような、社会から受ける「男らしさ」というプレッシャーが背景にあります。
また、精神科医の松本俊彦先生は、「男性の自殺はうつ病対策だけでは防げず、アルコール問題への対応が必要だ」と男性の自殺とアルコールとの関連を指摘し、警鐘を鳴らしています。つまり、「男として」、「弱音を吐けない」、「人に助けを求められない」男性が、抱え込んでいる不安をアルコールによって一時的に解消することを繰り返していくうちに、自殺のリスクを高めてしまうのです。
松本先生の著書、『アルコールとうつ・自殺—「死のトライアングル」を防ぐために』(岩波ブックレット
897)によると、アルコール依存はもちろんのこと、時には依存症未満の「飲み過ぎ」レベルであっても、アルコールと自殺は密接な関係にあり、自殺リスクを高める原因となります。