アダム・ドライバーが語る、世界が恋をした最強の悪役

「僕も『スター・ウォーズ』のファンだから、何があっても台無しにはしたくない」ーーアダム・ドライバー

自分の集中力について「役に立つ場合もある」と本人。「回し車のハムスターのように、エネルギーの無駄遣いでもあるけどね」 テルライドでの表彰と、スコセッシからのお褒めの言葉は「嬉しく」感じてはいるものの、そのことを語る彼の口調には、気落ちした色がにじんでいた。「実はあの時こう思ったんだ、『ああ、そうか、まだまだ上がいるのか』って」

『ザ・レポート』も『マリッジ・ストーリー』も、ドライバーには個人的に共鳴する部分がある。彼が7歳の時に両親が離婚。母親が再婚した相手はバプティスト教会の聖職者だった。本人がはっきり口にしたわけではないが、複雑な思いや父親との葛藤があったことが伺える。一方『ザ・レポート』は、ドライバーの人生と驚くべき縁でつながっている。彼は911の直後に海兵隊に入隊して戦地で戦うことを望んでいたが、それこそまさに映画の中で主人公が捜査を進めることになる、拷問三昧の尋問を承認した戦争だったのだ。

「入隊した時は、政治のことなどまったく考えていなかった」と本人は言う。「同じ年代の人たちと同じように、自分も何かしたいという気持ちに押されていたんだ。頭に思い浮かべる敵に顔はなかった。ただ、自分たちを攻撃する者は誰だろうと仕返ししてやりたい、という気持ちだけ。政府を信頼する世界で生まれ育ってきたから、組織に絶対の信頼を置いていた。ずいぶん後になるまで、俯瞰で物事をみるということはなかったね」

誤った方向へ向けられたエネルギーが限界状態に達したところで、彼は軍隊の道を断念した。サンディエゴのペンドルトン基地での訓練中、彼と友人は朝の体力トレーニングを受けそびれた。上官は2人に、隊を離れて自主練するよう命じた。ドライバーは自分用にマウンテンバイクを購入していて、すぐさま飛び乗って急な崖を猛スピードで下って行った。「それが海兵隊の余暇の過ごし方なんだ」と彼は言う。「海兵隊で一番多いケガは、基地の外で起きるんだよ。海岸で喧嘩に巻き込まれるとか、ティワナで民兵に追いかけられるとか。しょっちゅう酔いつぶれて、そのまま車を運転したもんさ。大量のアドレナリンを伴う仕事だから、他でも同じ興奮を求めてしまうんだ」 あの日、あの崖で、彼も楽しいひと時を過ごした。側溝にはまって胸部にハンドルを強く打ち付けるまでは。その時の衝撃で胸骨を脱臼し、心臓震盪を起こした。ケガの後も軍に残り続けるつもりだったが、結局名誉除隊となった。そのことをずっと後ろめたく感じていたが、最近になって海兵隊の友人から連絡があり、もう気に病むのは辞めろと言われた。「あの一言のおかげで肩の荷を下ろすことができたよ」とドライバーは言う。

海兵隊の後、彼はジュリアードへ進み、最終的にHBOのドラマ『GIRLS/ガールズ』のオーディションにたどり着いた。番組の共同制作者レナ・ダナムは彼の向こう見ずなところに惹かれたと言う。「まさにこう思ったわ、『この人ならきっとやり遂げるだろう』って」と、ダナム本人から聞いたことがある。「彼自身が変わり者で、杓子定規なルールに縛られない人だからでしょうね。他人が敷いたレールの上を歩く人生には興味がない人なのよ」

模範的な成功とはそぐわないが、この時期どこかで、彼はその種の楽しみを覚えた。「クスリをやったことはあるよ」 『Burn This』での底抜けにタガの外れた登場シーンを見て、ドラッグとは無縁だった人間のわりにはお見事ですね、と言ったとき、彼はこう白状した。「20代のときにね。今はやらないよ! もうそんなパワーはないね。あれはエネルギーを使うから」

2月、ドライバーはロンドンからの帰国便に乗っていた。恍惚として、それでいて少しピリピリした様子だったので、キャビンアテンデントが大丈夫かと尋ねた。彼は大丈夫だと答えたが、胸中の想いはしまっておいた。『スター・ウォーズ』三部作の最終撮影が一段落し――おそらく『スカイウォーカーの夜明け』のカイロ・レンの最後のシーンになるだろう――そのまま空港に直行したのだった。「周りはみんな眠っていて、僕は自分がぼんやりしていることにも気づかなかった」と本人。「6年間あの作品と共に過ごしてきたからね。終わりを迎えるのは辛いよ――あの映画のおかげで今の自分がいるし、撮影中にいろんなことを学んだ。その映画が終わりを迎える。それをどう処理していけばいいのさ?」

それに加えて、いつものごとく、充分な数のテイクを撮影したかどうかが気がかりだった。「それがすごく気になっていた。やっと腰を落ち着けたと思ったら、その後6時間ずっと最後の撮影シーンのことを考えている。うまく演じられただろうか? あのセリフで良かっただろうか? あれでよかったか? そんなことで頭の中がいっぱいなんだ」

ドライバーは2015年のインタビューで、『スター・ウォーズ』の世界に加わることは「すぐにイエスとは言えなかった。しばらく悩んだよ」と言っていた。「リメイクするから、オールキャストが勢ぞろいするからといって、絶対に出るべきとは限らない。大規模な超大作映画でも、スペクタクルを重んじるがゆえにキャラクターやストーリーが犠牲になってしまった例はいくつも見てきたからね。どんな映画になるのかも分からなかったし、脚本もなかった。でもJ・Jが開口一番、キャラクターとストーリーのことを話し出してね。それが本当に面白かったんだ。それでもまだ疑問が残る。果たして自分に務まるだろうか? 僕も『スター・ウォーズ』のファンだから、何があっても台無しにはしたくない。多分、台無しにしたくない、という思いがあったからこそ、やるべきだと思えたんだ」

だがその時は、自分がどれほどの名声を手にすることになるか把握していなかった。この点については今も葛藤中で、最近共演したのっぽの役者仲間ビル・マレーの処世術を手本にしようと努力している。「彼は決して、世間の評判に、自分の人生を邪魔させないんだ」と言うドライバーも、常に世間の目にさらされる感覚がお気に召さないようだ。「彼は、セレブリティが1人もいない世界にいるかのようにふるまう術を心得ているんだ」

とはいえ、同じマンションに住む子供たちから「おはよう、カイロ・レン」と声を掛けられるのはまんざらでもないようだ。撮影衣装を着たまま帰宅したこともある。その時の衣装は、今も来客用のベッドルームにしまってあるそうだ。「本当に何もやることがなくなったら、それを着て近所を歩こうかな」と冗談を言った。

Translated by Akiko Kato

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