石若駿はさらなる地平へ、新世代のリーダーを引き受ける覚悟と今思うこと

夢があるものを作りたかった

―最近は「もうレコード会社なんて要らない」みたいなアーティストも少なくないし、メジャーでやるのはネガティブな要素も考えうると思うんですよ。

石若:レコード会社は要らないかなって感じの活動は自分でもやっていて。『SONGBOOK』はそうやって始まった部分もあると思うし、最初のころのインタビューではそういうことを言ってたかもしれない(笑)。



「SONGBOOK PROJECT」は2016年に本格始動し、現在までに4作をリリース。核となるのは大学時代の先輩でceroのサポートとしても活動し、2020年1月にメジャーデビューが決まった角銅真実 (Vo,etc)と、中村佳穂BANDや君島大空などに参加する西田修大(Gt)。ここでの石若は鍵盤楽器を主に担当。

―原盤権だとか楽曲の権利の話だったり、いろんな縛りがあったりみたいな話もあるわけじゃないですか。そういうことを考えて、メジャーを選ばない人もいたりするわけじゃないですか。それでもメジャーに決めたんだなって。しかも、今までで一番稼げそうな音源をメジャーから出すんだなと。

石若:稼げそうとは考えてないですけど(笑)、自分史上一番ポップなものを作りたいとは思いました。それをいい形で実現させてくれるのはメジャーかなと思ったんです。1000枚の単位じゃなくて『シティ・コネクション』(日野皓正の1979年録音、ヒノテル・ブームを巻き起こした大ヒット作)みたいな、夢があるものを作りたかった。田渕さんや原賀さんはこれまで日野さんや貞夫さんと仕事をしてきた人たちです。そんなバックグラウンドがある方々と仕事をすることで、レジェンド達がやってきたことを継承しようという意味もあります。自分でいうのも変だけど、それは俺がやることかなって思って、このプロジェクトを始めました。

―たしかに、その役割は石若にしかできないものだと僕も思います。今だったら、若い人がメジャーの力を借りずに、インディぺンデントでやるって感じの方が記事としてはカッコイイのかもしれないけど、一方で歴史のあるレコード会社が持っている役割や意味、彼らじゃないとできないこともあると思うんです。そこで石若駿が後者を選んだのはすごく興味があったんだよね。

石若:なるほど。

―そもそも、そこまで海外を意識するようになったのは何かきっかけがあったんですか?

石若:ルクセンブルクでJazz Meetingっていうヨーロッパ中のジャズのオーガナイザーが集まるフェスがあって、そこに俺も出たんですよ。アジア人のミュージシャンが出演するのは初めてに等しいくらい珍しいことだったみたいで、いろんな国のオーガナイザーが俺たちに話しかけてきて。「なぜ今まで来なかったんだ?」「日本は今、どうなっているんだ?」みたいな。そんな経験もあって、海外で活動している日本人とは別に、日本で活動しているミュージシャンも積極的に海外に出ていったほうがいいと強く思ったんです。このプロジェクトは、そんなことを考えた矢先に始まった話でもあるんですよね。

―僕もドイツのJazzaheadってコンヴェンションに行ったことがあって、そこには世界中のレーベルやフェスなどがブースを出してるんだけど、日本からは一つも出てないんですよね。一方で、韓国やインドネシアとか、アジアの国々は今すごく頑張っているわけです。そこでも「日本のジャズってどんな感じなの?」みたいにすごく聞かれたんですよ。

石若:わかります。

―黒田卓也、BIGYUKI、小川慶太、挾間美帆とかアメリカを拠点に活動している人はいるわけだけど、彼らの音楽は日本ではなくて、むしろ住んでいる土地に紐づいているとも言えそうですよね。石若はそういうやり方ではなくて、日本のシーンにあるものをそのまま海外に持って行きたいと。そのきっかけに自分がなりたい。

石若:そういうことになりますね。そこも最初に言った「ふさわしい」って言葉に繋がっています。

―それはたしかに石若がやるべきことだと思うし、さっき継承すると言ってた日野さんや貞夫さん、プーさん(菊地雅章)がやろうとしてきたことの延長でもありますよね。

石若:それに気づいたのは大学生の時で。現代音楽の授業とかコンサートで、日本人が作った新しめの曲と接する機会が多かったんですよね。そこから日本人が作曲した曲の響きを、日本人が演奏するのは強いんじゃないかと気づいたんです。自分が普段やっている音楽、つまりジャズの中でもその強みを出せたらというのはずっと思ってました。

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