「レイは何者か?」スター・ウォーズ製作陣の苦悩と証言集

2019年 クリス・テリオ
『スカイウォーカーの夜明け』 共同脚本

“選ばれし者”の束縛から解放され、フォースの民主化をはかったライアン・ジョンソンのやり方を否定せずにレイの生い立ちをエイブラムスとともにどのように展開していくか? という課題に対し、テリオは周到な答えを準備していた。「ライアンがやったことは非常に興味深かった」とテリオは言う。「それは、スター・ウォーズの民主化だった。家柄や血筋がすべてではないし、未来を決めるのは過去じゃない、というメッセージだったんだ。僕らはライアンのメッセージを探求し、あわよくば映画として展開できるようなアイデアとして受け止めた。だって、身分の違いによって二分できる問題じゃないから。王家の出と卑しい身分、その間にもたくさんのものが存在する。カイロ・レンの言葉のチョイスだってそうだ。「お前は何者でもない」って、そもそもあれはどんな意味なんだろう? レイが自分をそう思っているってことなのだろうか? レイ自身、そういう問いを自分に投げかけたことはあるのだろうか? ライアンが追求したアイデアは、すごくためになった。これは3部作についてとくに言えることだけど、シリーズものというのは会話がすべてなんだ。さっきもJ・Jとの会話中で触れたテーマや裏テーマ、全体的なテーマのようにね。『フォースの覚醒』ではレイが何者なのか、どこから来たのか、と問いかけ、『最後のジェダイ』ではある意味否定的な回答が出される。『スカイウォーカーの夜明け』ではこの2つを合わせて、第3の答えが提示できるだろう」

2017年 J・J・エイブラムス
『フォースの覚醒』、『スカイウォーカーの夜明け』 脚本監督

「ライアンは類稀な才能を持つ映画監督であり、語り手でもある」とエイブラムスは言う。「ベビーシッターやロードマップなんて必要なかった。僕はライアンにスピリチュアル面での方向性を伝えただけで、当時はエピソード8と9の概要さえなかった。キャスリーン(・ケネディ)と僕は方向性についてたくさんアイデアを持っていたし、それらをライアンにも提供した。でも、本当はライアンの邪魔をしたくなかったんだ。だから、自分が持っているものをさらけ出し、いつでも助けになるとはっきり伝えた。ライアンはすばらしい仕事をした。まるでウィジャボード(訳注:日本でいうコックリさんのような遊び)をしているような気分だった。自分がプレイしていたところに別の人が来る。その人に少しずつ引き継いでいくうちに最終的にその人がプレイヤーになる。移行は自覚しにくいものだ。でも一度手放すと、自分ではコントロールできなくなる。幸運にも、僕はライアンのような逸材にバトンをつなぐことができた」

2017年 ライアン・ジョンソン
『最後のジェダイ』監督・脚本

ジョンソンは、レイに関するすべての新事実が与えるエモーショナルな効果がありのままの事実よりも重要である、と考える理由を説明してくれた。「僕は、エモーショナルなインパクトを与えられるような深い何かが必要だと信じている」とジョンソンは言う。「それこそがすべてなんだ。サプライズもいいけど、それ自体はチープなものにすぎない。本当のところ、『私がお前の父親だ』というセリフには……エモーショナルで深い響きがあるからこそ、記憶に残る。『ウソだろ。全然わかんなかった』という印象を受けたからじゃない。このパターンができたせいで観客は『どうせ今回も奇想天外なサプライズがあるんでしょ?』という期待を持つ。サプライズを用意することは可能だし、それはそれでいい。でも、『そうだったんだ!』という発見以上の納得のいく意味を持たせなければいけない」

さらにジョンソンは、レイとは何者か? という質問に自由に答える権限を与えられていたことをはっきりと認めた。「デイジー(・リドリー)は、その答えを知っているつもりだったと思う」とジョンソンは言った。「J・Jは何らかのアイデアを持っていたのかな。僕らはいろんなことについて話し合ったけど、レイが何者かであるか、という情報はまったく与えられなかった。制作の過程でJ・JやLucasfilmのチームとも『これとか、あれとか、こんなのもアリだよね?』のように、レイの正体についてあれこれ議論した。すると、『OK、ストーリーの進行においてもっともインパクトがあるのは何だろう?』という話題になった。これは完璧な展開で、まさにあるべき姿だ。スター・ウォーズのような映画がシリーズの途中で方向性を見失ってしまうのは、シリーズものの神話に縛られすぎているかなんだ。本当はその逆であるべきなのに。だから『レイはこうじゃないといけないから、それを裏付けるストーリーにしなさい』とは言われなかった。シリーズにおけるレイ自身の物語を組み立てて、どんなキャラクターにするかを考え、「もっともインパクトを与えるためには、まさにこれを最高のパンチとして使えるじゃないか」ということに気づく。ストーリー作りとは、ホワイトボードに書かれた、絶対守らなければいけない架空の教義のために仕事をすることではない。僕はそう信じている。最高の映画とはそういうことなんだ」

2017年 デイジー・リドリー
レイ役

最後に、ここでさらなる混乱を招きそうなオチを紹介しよう。レイの両親に関する真実は、エイブラムスが『フォースの覚醒』の制作中に明かした内容の通りだった、と『最後のジェダイ』の公開前にリドリーはローリングストーン誌に語った。「アブダビの砂漠で、初めて言われたことがすべてなんだと思ってた」とリドリーは言う。それでも、リドリーはレイというキャラクターをめぐる憶測を楽しんでいた。「誰の意見にも根拠がある」と言った。「ファンの理論は馬鹿げてなんかいない。イカれてたり、大笑いしたくなるものもあるけど、決して馬鹿げていることはないわ。なかには完璧な構想もあった。『こんなことを思いつくなんて、すごい想像力ね!』って感心した。タイムトラベルにまつわる変な説もあった。『テーマはタイムトラベルじゃないんですけど』って思ったわ!」

Translated by Shoko Natori

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