J-POPの歴史「1986年と1987年、新しい扉が開いたロック元年」

伝説のオールナイトイベント「BEAT CHILD」

さっき事務所の紹介の話が途中で終わっちゃいましたけど、ジャグラーはTHE BLUE HEARTS。そしてユイ音楽工房はBOØWYですね。キティエンタープライズからは安全地帯が広島ピースコンサートに出ていましたね。ピースコンサートのフィナーレで美里さんが歌っているとき、後ろに尾崎さんが回り込んで美里さんを抱え上げたというシーンがありました。美里さんは「やめてやめて」とバタバタしながら慌てていた。そんな微笑ましいシーンもありました。それが87年ですね。

美里さんは「My Revolution」がヒットした86年から西武球場のライブを始めたんですね。20年間やりましたよ。世界的に多分あまり例がないでしょうね。そんな87年のハイライトが、8月23日からオールナイトで熊本県阿蘇山の山中、アスペクタという野外劇場で行われた「BEAT CHILD」ですよ。名付けたのが佐野元春さんですね。出演者は、佐野元春さん、白井貴子さん、渡辺美里さん、岡村靖幸さん、HOUND DOG、尾崎豊さん、RED WARRIORS、THE STREET SLIDERS、THE BLUE HEARTS、BOØWY。お客さんが6万7千人です。そして、豪雨だったんですよ。時間降水量70ミリ。山の斜面で何の雨を遮るものもない。そこが濁流と化したんですね。客席が濁流に飲まれて、低体温症で気を失ったお客さんが流されてくるっていう本当に戦場のようなライブだった。



1000人以上が救急車で運ばれましたね。警察がいたんですけど、主催者に続けてくれっていったんです。なんでかというと、斜面の両脇は渓流ですよ。中止してしまって行き場を失ってしまったお客さんがこの谷に飲まれたら死人が出るみたいな感じになってしまって、朝までライブをやってくれと。限界状況ギリギリの中でのライブが続きましたね。一晩中コンサートが続いた最後が佐野さんだったんですね。明け方、客席に湯気が雲のように立ち上っているんです。それはお客さんの体温、湯気だった。今の夏フェスの反面教師でしょうね。それもひとつの新しい波の象徴的な場面だった。そういう新しい波はライブだけではなくて、レコード会社にも形になって現れました。エピックソニーというのがそういう会社ですね。

TM NETWORK / Get Wild


1987年4月に発売になりましたTM NETWORK「Get Wild」。TMのデビューは84年ですね。シングル「金曜日のライオン (Take it to the Lucky)」、そしてアルバムは『RAINBOW RAINBOW』。ずっとお話してきたように、大規模なライブがたくさん行われて、本当にライブシーンが盛り上がった中、彼らはライブをやらない。そういうデビューだったんです。今のライブの機材とか環境では自分たちの音楽は再現できないといっていました。彼らが掲げていたのは、「FANKS」という旗です。パンクとファンク・ミュージックのファンクと音楽ファンのファン、その3つを掛け合わせた造語ですね。小室哲哉さんも造語作りの名人でしたね。

TM NETWORKもエピックでした。エピック、いっぱいいましたよ。佐野元春さん、鈴木雅之さん、渡辺美里さん、TM NETWORK、大沢誉志幸さん、バービーボーイズ、大江千里さん、さらにTHE MODS、みんなエピックですよ。70年代にURCとか、エレックとか、ベルウッドっていうインディーズ系のレーベルがありましたけど、エピックはソニーという大メジャーの中でのロックに特化したレーベルですからね。影響力は70年代のそういうレーベルの比ではありませんでしたね。

TM NETWORKは、コンピュータを使ったダンスミュージックという意味で新しい流れでした。その前にYMOがあって、とっても実験的な形で幕を閉じた。それを継承する形で大衆的なポップミュージックの中に花を咲かせた。これはTMの功績ですね。ただ、年間チャートとかヒットチャートでは、今日ずっとお話してきたような人たちはあまり登場してきていないんです。やっぱり86年87年のシングルチャートはテレビにたくさん出てくる人や演歌や歌謡曲の人たちが頑張っていましたね。86年は桑田さんのソロのKUWATA BANDが「BAN BAN BAN」で4位に入ったりもしている。健闘している人たちもいました。中森明菜さんなんかは、特に87年、そういう中に4曲入れていましたからね。で、87年は桑田佳祐さんが初めてソロで活動を始める。そういう年でもありました。

さて、この87年の年間チャート、「Get Wild」の上にいたのが次の人たちなんですが、このライブの話をしましょう。

BOØWY / Dreamin’


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