求めている音像の変化
─NARASAKIさんにはもう、15年くらい定期的に取材させていただいているのですが、いつお会いしても音質に対するこだわりは並々ならぬものがあるじゃないですか。それって、求めている音像もこの15年で変化しているということなんでしょうね?
NARASAKI:そこはもう、どんどん変わってきてますね。昔ほどキラキラしている音ではなくて、暗めの音が好きになってきている。例えば、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのサード・アルバム『m b v』(2013年)も暗い音じゃないですか。ローミッドが混沌としているあの「ヌケの悪い」サウンドに、俺はすごく妖艶さを感じる。すべてがクリアに聴こえてくるのではないものに、すごく意味合いを感じるんです。それは「エロティシズム」といってもいいかも知れない。
─とてもよく分かります。ここ最近のCOTDの新曲はエロティックですよね。
NARASAKI:そう言っていただけると嬉しいですね(笑)。
─新曲「HALF LIFE」で気になったのは、ちょっと前にTwitterで「去っていった友から借りているギターで弾いたものです。この曲はその彼に捧げます」と呟いてましたよね?
NARASAKI:今年2月に友人の石塚BERA伯広が他界してしまって。自分にとっては一番仲の良かった人間だったんです。なので、完成していたテイクもそのギターで弾き直すなどしています。メモリアル的な意味が込められています。
─僕もNARASAKIさんも同い年ですが近しい人が他界していく場面に遭遇することもこれからきっと増えていくでしょうね。
NARASAKI:石塚さんはずっと俺に「COTDのライブをやれ」と言い続けていたので、その最中に亡くなったから、今後いつまで俺は(COTDを)やったらいいのか、そしていつ辞めたらいいのかを聞くことが出来なくなっちゃいました。なので、彼が生きていた歳まではやらなきゃいけないのかな、なんて勝手に思っています。
─ところで、NARASAKIさんが劇伴や他アーティストへの楽曲提供をやることになったきっかけは?
NARASAKI:劇伴に関しては作家の人から連絡があったんです。というのも、監督から上がってくる参考曲がことごとくCOTDだったから「じゃあ知り合いだから一緒にやりましょう」と。それが2004年ですかね(*)。それからほんと、いろんな種類の劇伴を手掛けるようになりました。『深夜食堂』とか、きっと俺がやっていると知ったら意外だと驚く人もいそう。
*『アクエリアンエイジSagaII~Don’t forget me...~』(MoMoとの共同ユニット「Qwerty」名義)
─でも、昔からジャンル関係なく様々な音楽を聴いてきたNARASAKIさんにとっては、引き出しの一つを開けただけというか。
NARASAKI:そうなのかもしれませんね。
─そんなに違和感はなかったと思うんですけど、依頼する側はどんな気持ちでNARASAKIさんにお声がけするんでしょうね。
NARASAKI:流れもあると思うし、映像の製作会社が気に入ってくれていたと思うんですけど、ドラマに関しては同じ監督と5本くらい一緒にドラマを作ったりして。最初の頃は「自分ならではの曲を」と思いながら作っていたんですけどね。今はもっと、その作品の世界に寄せるように心がけています(笑)。
─ももクロやアニソンへの楽曲提供は、どんな経緯で始まったのですか?
NARASAKI:ももクロの前に『さよなら絶望先生』というアニメに携わっていて、プロデューサーの宮本純乃介氏から「今度、新しくアイドルをやることになったのですがいかがですか」と。絶望先生の打ち上げで言われたことから始まりました。『さよなら絶望先生』は、テイストが自分のやりたいことストライクというか。デスなサウンドに萌え萌えの声が乗るっていう曲だったんですよね。ティム・バートンの世界観みたいな、「怖かわいい」みたいなのが好きなんですよ。なので『絶望先生』のときは本当に楽しく曲を作らせてもらいましたし二つ返事でした。
きっと、自分は何をやっても許されるだろうって思っているんですよね。「NARASAKIだったら仕方ない」と思われているというか(笑)。「あいつはいつも勝手だよね」って。でもこういうスタンスの作家がもっと増えてくれるといいなと、ちょっと思っています。もっと音楽は自由に作っていいんだよ?って。プロで活動していて、本当にやりたいことだけをやっている作家はまだごく一部だと思うし。
─NARASAKIさんはなぜ、それが出来たのだと思います?
NARASAKI:そういう姿勢をずっと貫き通してきたからじゃないですかね(笑)。
─そのために手放したものや、失ってきたものもありました?
NARASAKI:いや、失ってきたものは今までないですね。まあ、自分の場合は狭いニーズでやっているところもあるのかなと。要はバランスじゃないかな。俺の場合、どんな制作過程でも楽しくやることが出来るので。そこは性格的にラッキーだなと思います。