ASKAの2019年 チャゲアス脱退を経て新たに見つけたエンターテイメントの本質

10年振りのCDシングルをリリースした理由

―はい。さて、2019年11月20日にシングル「歌になりたい」がリリースされました。ASKAさんにとっては10年振りのCDシングルです。正直、今、シングルが機能する音楽業界の土壌がない中で、あえてこの曲をシングルで切っていこうというのは?

自分がここ数年で作ってきた曲の中でも、シングルにしなきゃいけない楽曲だなって大作ができたので。それはメロディが出来上がった時点で自分のブログで報告したぐらいです。これもタイミングがよく、この曲が生まれた宿命・運命もあったんでしょうけど、早々と去年のビルボードライブの最終日にこの曲を公表出来ました。なおかつその後次のツアーのトリにこの曲を演奏しました。それで、満を持して今回シングルでしょ? だから表に出ていないプロモーション期間としては半年ぐらいありました。そういう運命みたいのを背負った曲なんだと思います。それと、これからはシングルに関しては前のような気構えじゃなくて、新しい信念でシングルを切っていこうかなと思っているんです。ヒットがどうのこうのとか、もちろんヒットするに越したことはないんですけど、たくさんCDもあるから。そうじゃなくて、シングルを出す意味を見出したので。必要な時はちゃんとシングルを出します。


「歌になりたい」Music Video



―新しい信念というのは?

今はあまり具体的なことは言えないんですけど、音楽業界の改革に繋がることですね。

―この「歌になりたい」の背景について聞かせてもらえますか? 確かオフィシャルの動画インタビューでこの曲の背景には楳図かずおさんの『漂流教室』があるとおっしゃっていたと思うのですが。

高校生時代に、楳図かずおさんの『漂流教室』を、毎週毎週、いまかいまかと待ちながら読んだんです。これはもう漫画にあらずで、画の付いた小説だと思っていました。SF小説だと。そのぐらい色んな展開があった。今では漫画を読むことはほとんどありませんが、でも人生最高の漫画を一つあげてごらんなさいって言われたら、文句なしに『漂流教室』を挙げます。それを楳図さんとお会いした時にお話ししました。普通ものを作る人は、自分の作品でどれがいいかって聞かれた時に、明確に言わないですよね。皆大体「自分の生んだ子どものようなものですし、どれも同じです」って言いますね。そういう答えを僕は聞きたくなかったので、自分から答えました。「楳図さん、僕にはあります」って。その時どの曲のことを言ったかあまり覚えてないんですが、「やっぱりよくできた曲って僕にはあります。皆さんはお答えにならないことが常識になってますけど僕は答えます」って。「楳図さんはなんですか?」って聞いたんです。そしたら「漂流教室です」って。そこに全く嘘偽りはなかった。そんな『漂流教室』に魅せられて、今回勝手に僕は一方的にタイアップしました(笑)。逆タイアップ。招かざるタイアップ。合意なきタイアップ(笑)!

―アハハハハ! 真面目な話に戻すと……今のこの時代が『漂流教室』そのものだということですか?

曲を作っててメロディが浮かんだ時に、さあ何を書こうかとふと浮かんだのが『漂流教室』。『漂流教室』をテーマにしてしまおうと。だから書くのはすごく早かったです。

―それはつまるところ『漂流教室』で描かれているあの世界が今だと?

そうですね。これはまたいろんな憶測を呼んでつまらないことを言われがちなので、あまり未来を語っちゃいけないですけどね。未来は予測できないから。だけど今のままいくと、環境の問題になっていくのは確かで、地球環境の変化だから、その変化に応じて環境はつくられていきます。『漂流教室』の砂漠の先には何かがあると思ってて。砂漠という時代を迎えただけの話で、それを迎えないと次がないですから。ただ僕達は、地球46億年の歴史の中で、人類が生きてるのなんて、針の1ミリにも満たない。それで文明とか偉そうなことを言ってるんだけど、ただ単に人間が誕生して、生活しやすい気候だっただけの話。その時に我々がたまたまいただけの話ですから。その先どうするかって考えて、生き残ることは大切だろうけど、人間が環境を変えようとか、何とかっていうのはもう、宇宙規模でいくと人間の思い上がりで、そんなことできるわけがない。もちろん気象を動かすことはできるし、気象をつくることもできます。実際やっていることですから。そんなことを起こしたって地球の浄化作用で元に戻るだけで、人がいなくなったらまた元に戻りますから。たまたまこの生命が反映できる時代にいて、それで自分達が地球を制したような気になっているだけで、そんな制したような人間もやがて滅んでいきますから。そうなったらまた地球は浄化されて元に戻る。そういう意味でいくと『漂流教室』には、この先どうなってしまうんだろう、こうなるんじゃないだろうかという世界が描かれているんです。

―ASKAさんとしてはこの「歌になりたい」を通して皆にそういうことを気づいてほしいと?

そこまでは考えてないです。楽曲として、すごく良い曲だねって言ってもらえればそれでいい、もうそれでOKなんです。


Courtesy of DADA label

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