批評家に酷評されたブロードウェイ・ミュージカル、TikTokで熱狂的人気の秘密

ブロードウェイ・ミュージカル『ビートルジュース』(Photo by Matthew Murphy)

昨年12月、米ニューヨーク・タイムズ紙がこんなニュースを報じた。ティム・バートンの名作映画を元にしたブロードウェイ・ミュージカル『ビートルジュース』が、ヒュー・ジャックマン主演の『ミュージック・マン』リバイバル公演のせいで、ウィンターガーデン劇場から追い出されることになったというのだ。

大勢の演劇ファンが怒り心頭し、「#SaveBeetlejuice」(ビートルジュースを救え)というハッシュタグがTwitterのトレンドチャート1位に登場した。リン=マニュエル・ミランダといったセレブリティらも立ち上がり、公演続行を訴えた。だが明らかに誰よりも怒り狂っていたのはTikTokのティーンエイジャーたちだった。彼らこそ、演劇好きな子もそうでない子も全部ひっくるめて、ミュージカルの巨大なファンベースを築いたのだ。

「ビートルジュースがドル箱公演のせいで追い出されちゃう」――というのは、『マリオカート』テーマ曲のリミックスをバックにしたTikTok動画のキャプション。別のTikTokには、歯列矯正をした子どもがパニックに陥ってクラッカーを頬張る姿が映し出されている(『ビートルジュース』の中の1曲「The Whole Being Dead Thing(原題)」の歌詞にちなんだもの)。タイトルもずばり、「『ビートルジュース』がウィンターガーデンから追い出されるのを知った瞬間」。

一見すると、30年以上も前の映画のブロードウェイ・ミュージカル版に10代の若者の間でこれほど熱狂するのは少々面食らう。プレビュー公演で権威ある演劇評論家からさんざんこき下ろされていたのだから、なおさらだ。「批評家たちにはウケなかった、とだけ言っておきましょう」と、作曲家のエディ・パーフェクト氏はローリングストーン誌に語った。

だがどういうわけか、『ビートルジュース』はジェネレーションZの観客にぴったりハマった。アレックス・ブライトマン演じるビートルジュースは、性に奔放で、とことんエロくて、これでもかと反体制的な雰囲気を放つ。新進気鋭のソフィア・アン・カルーソが演じるヒロインのリディアは、スチームパンク風ファッションに身を包むシニカルな10代の女の子で、この世とそこで生きる無知で愚かな中年の住人たちに対する態度はまさに「OK、ブーマー」と言える。彼女は劇中、ベビーブーマー世代やミレニアル文化の名残とも言えるガールパワーやポジティブ思考もどきの謳い文句に呆れて白目を剥く。「ポジティブでいられる余裕がある人なんて、ほとんどいないわ」とは、彼女がマリアンヌ・ウィリアムソンを思わせる平凡な人生コーチ、デリア(レスリー・クリッツァー)に向かって言うセリフだ。

Translated by Akiko Kato

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