ニール・パートの超絶ドラミングと世界観を味わうラッシュの12曲

「ザナドゥ」の歌詞は映画『市民ケーン』からインスパイアされたもの

「2112: Overture/The Temples of Syrinx」(1976年『西暦2112年』収録)


Fin Costello/Redferns/Getty Images

バンド3枚目となる1975年のアルバム『鋼の抱擁』への反応がイマイチだったことを踏まえ、ラッシュは違う方向へ舵を切るべきだと判断した。そしてリリースされた次回作『西暦2112年』でラッシュの伝説が確立したのである。さらに、パートのドラマーとしての実力の高さと作詞家としての才能も、同世代の中で突出していることが明らかとなった。「『西暦2112年』は現在の社会に存在するいくつかの事柄の進行具合を土台にして、それを150年後の未来を舞台にして語っている。音楽の再発見をうたう楽曲の連鎖だ」と、サーカス誌で同作品の前半のコンセプトについて語ったときに、パートはそう言っていた。ラッシュにとって、宇宙的な「Overture」とヘヴィーな「The Temples of Syrinx」が、サーカス誌でのパートの説明に近い音で、輝きを取り戻したバンドがそこにいる。また、ギャロップするリズムから荒々しく襲いかかる全開のロートタム、キット全体を使って繰り広げられる複雑に入り組んだ三連符のフィルまで、パートは至るところでそのモンスターぶりを遺憾なく発揮しているのだ。

「ザナドゥ(原題:Xanadu)」(1977年『フェアウェル・トゥ・キングス』収録)


Fin Costello/Redferns/Getty Images

70年代が終わりに近づくにつれて、ラッシュの音楽は意欲的に発展して行くばかりで、ゲディ・リーはシンセを使ってのダブリングを開始し、パートはワンマン・パーカッション・セクションと呼べるほど、打楽器全般を一人で操作し始めた。サミュエル・テイラー・コールリッジの長編ポエム「クーブラ・カーン」にインスパイアされたミステリアスな雰囲気のこの曲では、パートが作った電子音の鳥のさえずりにウィンドチャイムとチュブラーベルを組み合わせたアンビエント音のあとに、パートのドラムは入ってきて、初期の数学的ロック・リフと呼べる難解なリフが徐々に加速されて行く。ベルとチャイムで奏でられるインタールードの繊細なリフと、無駄を削ぎ落としたトリオのパワフルな演奏が交互に出現するこの曲は、機械のような正確さと獰猛なパワーを融合したパートの革新的なドラミングの典型例だろう。

その一方で、作詞家としての彼が作る歌詞では、彼が夢中になっている作品や作家からの影響を隠すことなく見せている。2010年のインタビューでパートは、「あの曲はもともと映画『市民ケーン』からインスパイアされたもので、この映画の冒頭部分に『クーブラ・カーン』の最初の一節『ザナドゥにクーブラ・カーンは壮麗な歓楽宮の造営を命じた』が登場するんだ。それで調べてみたら、このポエムに衝撃を受けてしまい、この曲がこのポエムに乗っ取られた状態になった」と語っていた。

Translated by Miki Nakayama

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