ニール・パートの超絶ドラミングと世界観を味わうラッシュの12曲

7日に亡くなったラッシュのニール・パート(Photo by Rob Verhorst/Redferns/Getty Images)

「西暦2112年」から「トム・サーヤ」まで、伝説のドラマー/作詞家が披露したまばゆいドラミングを感じよう。

「ニール・パートというのは、まったく違う生物で、ドラマーの中でも独立した一つの種族だ」と、デイヴ・グロールは2018年にローリングストーン誌に語った。これは「ラッシュのドラマーとして演奏する可能性が1ミリでもあるのか?」という質問への答えだった。ロック界の住人であれば、満場一致でグロールの発言に賛成するだろう。パートのドラミング技巧、40年に渡ってラッシュの難解な楽曲に活力を与えた才能、そこに芸術性と超絶テクニックに裏打ちされたエキセントリックさが加わり、彼は人々から紛れもない超人と見なされていた。作詩の能力にも恵まれたパートは、ラッシュのコンセプチュアルなプログレ大作にも、80年以降の感動的なヒット曲にも多大に貢献し、彼と同じ分野の同業者とはまったく異なる博識で唯一無二の才能を発揮した。

天才的打楽器奏者であり、言葉の魔術師だったニール・パートの全容を知るには、彼が残してくれた多くの楽曲を聴き込むしかないだろう。しかし、ここで紹介する12曲は、彼がラッシュ加入後に最初に参加した1975年のアルバムからバンドとして40年の歴史を閉じた最後のアルバムまで、全作品の中から選曲された、いわば「プロフェッサー」と敬愛された一人の男の壮大な世界を知る入門篇と考えてほしい。

「心の賛美歌(原題:Anthem)」(1975年『夜間飛行』収録)


Fin Costello/Redferns/Getty Images

これはラッシュの2枚目の1曲目で、ロック史上で重要なメンバーチェンジが行われたことを世界に知らしめた楽曲だ。セルフ・タイトルのバンドのデビュー・アルバムはラッシュのオリジナル・ドラマー、ジョン・ラトジーが演奏した唯一の作品で、フィルなしのハードロック・ドラムが炸裂している。ラトジーのプレイは確かにソウルフルだが、人々の度肝を抜くほどの魅力に欠けていた。当時はレッド・ツェッペリンの絶頂期と重なっていたことも、彼のドラムの魅力を半減させていただろう。しかし、「心の賛美歌」の一分のすきもなくスタッカートするイントロが、カーレースのようなスピード感にあふれる粒立ちの良いグルーヴに変わっていく様は、パートが加入したことでラッシュというバンドが以前とはまったく異なるバンドになったことを示している。

そして、この曲はブルース由来のドラム・スタイルを超えて、高度な技術で演奏される新たなロック・ドラミングの姿を初めて披露した曲とも言えるのだ。アイン・ランドのディストピア小説『アンセム』から題名を得たこの曲は、物事を深く考えるタイプの男性作詞家パートのデビュー曲でもある。「ニールがオーディションに来た日、彼の前に3人、彼のあとに1人いて、全部で5人だった。最後の男は2時間も運転してやって来たのだが、ニールのあとにこの男のオーディションするのは非常に気まずかったね」と、2016年に(ゲディ・)リーが当時を振り返っていた。

Translated by Miki Nakayama

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