映画『ジョーカー』音楽制作者アカデミー賞ノミネート「魔法のような体験だった」

こうしたプロセスを経て、グドナドッティルの作品は『ジョーカー』を代表する名シーンを形成するうえで重要な役割を担うようになった。[以下ネタバレ注意!]ホアキン・フェニックス扮するアーサー・フレックが初めて殺人を犯し、“ジョーカー”へと変わっていく時のバスルームでのダンスはまさにそのひとつだ。当初は主人公が自分の行いについて深く考えるシーンを想定していたが、フィリップス監督とフェニックスは、このシーンにはもっと何かが必要だと感じていたのだ。監督がフェニックスのためにグドナドッティルの作品の一部を流してから、撮影は最終的なプロセスへと向かって行った。

「ダンスを思いついたのはホアキン(・フェニックス)なんです。リアルタイムで、即興で踊っていました」とグドナドッティルは言う。「私が作曲した時に感じたことをホアキンが完璧に体現してくれているのを目の当たりにするのは、最高の気分でした。それは、まさに私が抱いたキャラクターのイメージで、言葉で説明しなくてもそのキャラクターとホアキンが分かり合うのを見るのは、魔法のような体験でした」

ゴールデン・グローブ賞の受賞からアカデミー賞へのノミネートのあいだにひと呼吸おく時間はなかった、とグドナドッティルは明かしてくれた。それでも、自らの功績によって女性作曲家のチャンスが増えるかもしれない、という文化的価値はしっかり把握している。

10年前は、「こうした大きなプロジェクトを女性に任せたがらない傾向があった」とグドナドッティルは感じていた。さらには、作曲の世界が長年にわたって一握りの男性によって支配されてきたことも付言した。「こうした方々は当然ながら、すばらしい作曲家であり、あらゆるチャンスに恵まれるべき人々です。それでも、新しい息吹を感じられるのはワクワクします」と彼女は言う。

グドナドッティルは、尊敬する女性作曲家として『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』のスコアを手がけた“ミカチュー”ことMica Leviと『マッドバウンド 哀しき友情』のTamar-kaliを挙げ、多様性の向上を掲げてきたハリウッドが真の変化を見せ始めたように感じると述べた。グドナドッティルは、こうしたチャンスを最大限に有効活用するべきであることもわかっている。

「私は、元来注目されたい、と思う人間ではありません。影にいるほうがずっと居心地がいいと思ってきました」とグドナドッティルは語る。「でも、こうして自分の考えを述べるチャンスを与えられたからには、それを活用し、ほかの女性たちにインスピレーションを与えたいと思います。若い女性たちのためにもっとも大きな変化を生み出せるとしたら、それはこうした業界に飛び込み、可能性があると教えてあげることです。それが最善の方法なんです。若い母親たちにとってもそうです。なぜなら、こうした業界で働きながらも家族をつくる資格があるのか? という別の問題がありますから。もちろん、私自身も母親ですし、母親であることが若い女性たちの障害になるのではなく、私のような存在が仕事をするための刺激になればと期待しています」

Translated by Shoko Natori

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