音楽愛とビジネスは両立できるのか? 世界最大手インディレーベル創始者に学ぶ

ー2000年代以降にオンラインサービスが浸透しだしてから、インディレーベルの運営の仕方も変わってきましたか?

マーティン:そうですね。少なくとも、私たちベガーズの運営方針ははっきりと変わりました。レコード・レーベルは長い間ずっと変わっていなくて、プロモーション、マーケティング、営業といった部門のなかにデジタルを加えただけという企業も多かったんですけど、私たちは会社自体をかなり改革・再構築し、現代社会に対応できるような会社になるよう意識的に改革してきました。Spotifyなどへの対応によって、全体的なシステムの変化が必要となりましたし、我々はそれに対応する変化を遂げたことに自負を抱いています。

ー具体的には、どんな改革をされてきたのでしょうか?

マーティン:もともと海外部門というものがありましたが閉鎖して、各プロダクトマネジャーにグローバルの権限を与えるスタイルにしました。それによってレーベルが(直接)各国の担当をしていく方針に変えたんです。それからフィジカルとデジタルで一緒にやっていたのを、部門を完全に切り離しました。今ではフィジカルがだいぶ縮小されまして、デジタルとストリーミングが一番の要になっています。日本は少し違いますけど世界の他の国ではそちらの方が強いので。何をリリースするかという話をする時にも、デジタルの部門をまず優先的に考えて、そこから発展させていくようにしています。

もちろん、フィジカルを疎かにしているわけではありません。レコードは今も非常に強く、特に日本市場が最善の場所だと感じています。


ベガーズ・グループ最大のヒットとなったアデル。大ヒット作『21』は2011年に4170万ポンド(現在のレートで約60億円)もの利益をグループにもたらした。

ーあなたから見て、日本の音楽マーケットはどのように映っていますか?

マーティン:2017年からBeatinkさんと一緒にやっていますが、日本のスタッフも素晴らしい人達ばかりで、今の環境にとても満足しています。ただ、やはり日本の市場は邦楽が大きいですよね。海外の音楽が入る隙間というのがまだまだ小さい。その一方で、熱狂的でマニアックな人たちは今も少なくない。そこはポジティブに捉えています。

ー日本のマーケットがこう変わったら、ベガーズ・グループとしてはもっとやりやすいのに……と思うところはありますか?

マーティン:ストリーミングの文化が発展すれば、もっとやりやすくなると思いますね。ストリーミングは国を超えて音楽の伝わり方も早いですし、他の国のデジタルマーケットも発展しています。その方がリスナーのみなさんも音楽を見つけやすくなるでしょうから。その点がもっと強くなってくれれば、日本とのビジネスが助かるかなと。

ー昔は洋楽マーケットといえば日本が断トツだったのに、最近は中国やアジアの市場が大きくなっていますよね。2009年に設立されたベガーズ・グループ・チャイナが、今では日本を追い抜くほどの売上になっているという記事も見かけました。

マーティン:中国はとてもエキサイティングな市場ですね。私たちは長年にわたって、中国にかなりの投資をしてきました。ほとんど収益がなくてもアーティストのプロモーションを長い間やってきて、それがようやく実を結んで来たのだと思っています。今の中国というのはNetEase、Tencent、Alibabaといった会社によるプラットフォームのおかげで音楽を販売しやすくなったんです。昔は中国でフィジカルを出すのは不可能に近かったといいますか、センサーシップ(検閲)の問題があって出せなかったのですが、ストリーミングが主流になってきた現在、他の国と同じような形で中国のサービスに音楽を渡せば広がっていくので、とてもやりやすくなりましたね。中国の消費者というのはとても元気がありますし、モバイルを使いこなす人も多いのですごくやりやすくなっています。

最近では、中国がベガーズにとって4番目に大きなターゲットになっています。アデルに拠る部分が大きいんですけど、もちろん彼女以外の音楽も中国で成功しています。ただ日本と違うのは、まだライブコンサートの市場が定着していないこと。日本は常にライブにおける魅力的な市場ですが、中国でライブをやる機会はほとんどありません。そういう意味で、まだまだ発展する見込みはあると思いますが、ことセールスに置いては素晴らしい成長を遂げています。

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