未解決事件から誤認逮捕まで、2010年代の「犯罪ドキュメンタリー」を象徴する5つの事件

その2
2014年:『Serial』

いろいろな意味で、ウェスト・メンフィス3のような事件への関心からアドナン・ムサード・サイアード――2014年にブレイクしたポッドキャスト『Serial(原題)』の主人公――への関心が芽生えた。尤も、サイアードは現在も有罪のまま、刑務所で服役中だ。1999年、当時10代だったサイアードは元恋人のヘイ・ミン・リーさんを殺したとして有罪となった。だが本人は今も無実を主張している。

全12話のポッドキャストで、司会を務めるサラ・ケーニヒ氏とジュリー・スナイダー氏の2人はリーさん絞殺の引き金となった出来事とサイアードの関与を徹底調査。それがきっかけで2014年、再び事件は注目を浴びるようになった。特に、2人はエイジア・マクレーンという目撃者に取材している。彼女はリーさんが殺された時間帯にサイアードを高校の図書館で見かけたと主張したが、ポッドキャストによると、サイアードの公判では事情聴取を受けていなかった。さらにポッドキャストは、最初の弁護士クリスティーナ・グティエレス氏の力量も疑問視した。同氏は2004年に他界している。

『Serial』が武器としたストーリーテリングの手法、つまりリアルタイムで調査の途中経過を報告するという手法は、これ以降標準となった。関係者が新たな手掛かりに遭遇したり、どこからともなく目撃者が浮上したりするため、リスナーは毎週木曜朝にエピソードが更新されて初めて、調査の進展を知るのだ。

語り口穏やかで、感情の起伏も激しくないサイアードにも固定ファンがついていた――釈放を訴えるTシャツやChange.orgでの署名活動、彼の苦境に関する数えきれない記事。ポッドキャストにより事件への関心が十分高まったため、サイアードの新たな弁護団は再審理を申し立てた――申し立ての根拠として、グティエレス氏がマクレーン氏を証言台に立たせなかったゆえに、有能な弁護人を立てる権利が奪われた、と述べた。

2016年、事件にいくつか進展が見られた。メリーランド州の裁判所は再審を命じ、メリーランド州特別控訴裁判所もこの裁定を支持した。ところが2019年3月、控訴裁判所は裁定を撤回。同年11月、メリーランド州最高裁判所はこの判断を支持した。

サイアードの弁護士ジャスティン・ブラウン氏曰く、戦いを諦めたわけではないという。「これまで2つの裁判所が再審は妥当だと言っていたのに、メリーランド州の最高裁がそれを覆した。開いた口が塞がりませんね」と、同氏は公共ラジオ放送NPRに語った。サイアードの運命はさておき、彼の物語のおかげで――ケーニヒらの想像力豊かなストーリーテリングの手法も併せて――ポッドキャストに犯罪ドキュメンタリーというジャンルが確立するに至ったのだ。

Translated by Akiko Kato

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