アル・ゴアが考える気候変動問題「絶望している場合ではない」

トランプ米大統領は気候変動問題の火付け役

ー活動家の中には、ドナルド・トランプは気候問題運動に火を付け、アクティビズムを生んだ最大の立役者だとする声もあります。彼が大統領に就任して3年が経ちましたが、気候問題運動の火付け役としての彼をどう見ていますか?

彼が火付け役となったことは疑いの余地がない。大統領選挙以降私は、「ある力が働くと、必ず等しい大きさの逆向きの力が働く」という物理学の基本的な法則を主張してきた。気候問題を否定するトランプの態度に対する反動が、気候問題運動における新たな原動力となっているのは間違いない。1979〜80年の米国では、ジミー・カーターが締結した第二次戦略兵器制限交渉(SALT II)に対する議論があった。ソ連がアフガニスタンへ侵攻し、当時大統領候補だったロナルド・レーガンはソ連を「悪の帝国」と呼び、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備増強を主張した。その後カーターは上院に諮っていたSALT条約を取り下げたため、反核運動が自然と巻き起こった。現在私たちが直面している物理法則の前例といえよう。大統領が先導して運動を妨害するのを許してもよいのかと言えば、そうではない。ただ、現実はそのように動いている。

ーアクティビストであり政治家でもあるあなたの立場からすると、特に気候問題に関してトランプによる米国独自主義はより際立つと思います。大統領が態度をはっきりせず、あからさまに問題を軽視している場合、主導権を持ち続けようとする米国のやり方にどのような影響があるでしょうか?

私ではなく誰か他の人の表現だが、トランプは悪意と無能が混在する人間だ。特に彼の無能さは、気候変動運動を妨げようとする彼の行動の多くが裁判によって無効と判断されたことからもわかる。それでも米国が積極的で創造力に富み、革新的なリーダーシップを発揮しない場合は、国際社会がより迅速に運動を推進しようという新たなコンセンサスを目指して結束しようとする妨げになる。そしてマドリードは、むしろコペンハーゲンやパリに近かった。理由のひとつは、米国による後ろ盾がなかったからだ。米国の州知事や市長らは、米国の名誉をある程度挽回したのは確かだ。しかし彼らもオバマやクリントン、そして京都での私ほど強力に推進することはできなかった。

ーあなたは40年以上に渡り、気候変動問題に取り組んできました。国民に影響を与えたり心を掴むために最も効果的な方法という観点から、米国民の心理についてどのようなことを学びましたか?

最も強力な味方は母なる自然だということを学んだ。大規模自然災害直後に人々の意識が変わっていく事例はいくらでも挙げられる。甚大な被害をもたらす大規模な自然災害が増えてきたことで、世論も大きく変わってきた。民主党支持者の間では気候変動が最も重要視すべき課題だ、という調査結果もある。リベラルな民主党員にとって最も重要な問題なのだ。共和党の大多数は今、基本的に偏っている。そして若い世代は、全く程遠い。これもまた、甚大な自然災害が大きな原因になっていると思う。オーストラリアの火災は、昨年夏と秋に起きたカリフォルニアの大火災の衝撃を鮮明に蘇らせる。そしてアマゾンの火災。衝撃は一年中続く。さらに今では、「雨爆弾」と呼ぶノアの洪水並みの大洪水が発生している。

ーまだ私たちにできることはあるでしょうか? それとも共和党側による気候変動問題の否定が、まるで信条を試す踏み絵としてまかり通ってしまっているのでしょうか?

酷い状況だ。まだ変わる余地があると、私は信じている。実際に、周りからじわじわと浸食している。部族の協定というのは今なお生きている。三銃士の精神に似ている。部族の中では皆、中絶に反対して銃所持に賛成し、そして気候変動問題を否定している。他にも部族に共通する項目はあるだろう。「One for all, and all for one」だ。ところが気候問題でも銃規制問題でも、何かひとつ自分が意見を変えると、部族のメンバーである証を失う。すると資金的な後ろ盾を失うと同時に対立候補が立てられ、結局議員を辞めることとなる。自分ひとりなら単純なアルゴリズムといえるが、家族やスタッフや有権者が絡んでくると、より複雑な問題になるのだ。

しかしこの状況は、トランプが大統領になる以前から存在した。化石燃料企業が、タバコ業界による偽りのテクニックを真似た手口は、よく知られている。両者が同じPR会社を雇ったり、道義に反する似たような宣伝文句を使ったりする例もあった。しかも今や全部とまでは言わないが多くの化石燃料企業の幹部が、自社の科学者からの警告に反して、酷く非道義的な政策のプロパガンダに対して巨額の献金を行なっているのだ。ことわざにあるように、「柵の支柱の上に亀が乗っているのを見ても、亀が自分で登ったとはとても思えないだろう」。気候変動問題に関して言えば、とてつもなく高いレベルの人間が否定したとしても、それは彼が単独で下した判断ではないということだ。

現在では、ルパート・マードックが責任の一端を担っている。オーストラリアが黒こげになっている最中も、彼は毎日ぞっとするような嘘を吐き続けている。さらに、米国でFOXニュースを通じて行なったように、彼はオーストラリア国民によるコンセンサス形成の能力を貶めている。

Translated by Smokva Tokyo

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