鮎川誠が語ったシナロケの矜持「ロックの世界はタイムレス、エイジレス」

「ワイルドシング」にまつわるエピソード

―「雨」をちゃんとシナロケでレコーディングで演奏したのはこの音源の一回だけなんですか?

うん。「Baby I’m Yours」は、その前にレコーディングの曲をリハーサルする時に、もしあわよくばレコーディングで時間が余ったら、何曲かカバーも録りたいねっていう時に、「Baby I’m Yours」は下北のスタジオで一応なぞったけど、「雨」はちょっと分かんない。ただ「雨」はサンハウスの曲やから、奈良も実際レコーディングで弾いてるし、川嶋も知ってるし。だから自分らの内なるレパートリーではあるんだけど実際にシーナ&ロケッツとしてちゃんと演奏したのはこれ一回だね。

―ちなみに、サンハウスのフロントマンでもある柴山さんはこのカバーは聴いてくれたんですか?

うん。聴いてもらった。

―何かおっしゃってました?

うーん、何も言わない(笑)。ふーんって感じ(笑)。

―でもちゃんと聴いてもらうんですね?

うん。遊びきた時にね。『雨を聴いて』って。

―シーナ&ロケッツはライブがとにかくすごいバンドですけど、M17のライブ音源の「ワイルドシング」は圧巻ですね。

「ワイルドシング」はこれはよくやってた。2000年代に一度レコーディング仕掛けたこともあって。今回、シーナと録った最後の7曲が形になるわけやけど、僕の方は、まぁお蔵入りだと思ってたの。だた、これひょっとしたらすごいんやない?って、自分だけは時々プレイバックして思いよったんです。でもなんか自分からはそれは中途半端な7曲で形にするのは難しいなっと思いよったし、次のアルバムにとか言う話はなかったんですけど、ビクターの若手チームが提案してくれたんですよ。このライブ音源とビクター探したらいっぱい今までのアウトテイクを見つけてくれて。それで、わー、それやったら俺念願のカバーで括るアルバムにしたいと思ったんです。で、そんなんを選びよる時に、この「ワイルドシング」は字面もかっこいいし。「ワイルドシング」って字面かセットリストにあるだけでもカッコいいのもあってこれはよくライブでしよった。2000年頃はよく歌ってたんです。そしたらEZOロックの、多分動画を撮ってくれた音を抜いたのかな?その音源がパソコンに入っとって、音は悪いんだけど、もうぐちゃぐちゃの巨大なテントの、お客さんの地鳴りのようなファンの声と、それをウワーッとシーナが「エブリバディ、ロックンロール!」って騒ぎながらやる、これが俺たちの一番おりたい場所、最高に盛り上がった最高の思い出の場所と思ったら、その演奏がどうじゃこうじゃよりも、もう字面で入れろって感じ(笑)。それと、これこそがロックたい!って。ロックの現場たい!って。始まってみらんとどうなるか分からんとよ、っちゅうようなロケッツの演奏と相まってね。これを聴いてもらいたいと思って。

―これは素晴らしいライブテイクで、変な話、ここでアルバムを終わっても良かったのかなって感じもしなくもないですけど。

うん。

―あえて?

うん。あえて「マイボニー」を最後に入れました。「マイボニー」はシーナが歌うって言うた。「マイボニー」をやりたいって言うてくれた思い出の曲なんです。ストーンズの曲は「ルビーチューズデイ」とかレコードにした曲だけでも4、5曲あるんですね。僕らの歴史で40年シーナとレコード作って。でもビートルズはちょっと敬遠するところがあって……まぁ「ハードデイズナイト」やら、何曲かは僕らライブでやったことあるんですけど、音源としての形はなかったのね。それで、ビートルズも1曲カバーしてレコード入れたいねっちゅうアイディアは前々からずっとあって、そんな時にシーナが「じゃあ私マイボニーがいい」って言うて。それで90年代にシナロケが新しいメンバーになった頃に自分らのレパートリーにした。裕也さんのニューイヤーでその曲を流してもらったことも確かあったと思う。なんちゅうか『マイボニー』は合言葉みたいな。あの時代が始まる時のハンブルグの……僕らは活字のビートルズも知らないし、カタカナのビートルズも見たことない。耳で聞こえてきてくるDJがラジオで紹介する「The Beatles!」っていうのしか知らん時にかかった1曲なんです。64年の1月、2月ぐらいの話で。高校の勉強しよったら、ビートルズが突然かかった時は本当に衝撃やった。エレキギターの音だし、ウーっていうシャウトがね。ビートルズにはシャウトを主役にしたような歌唱がいっぱいあるんよ。リトル・リチャードもシャウトはあったけど、ビートルズのは青臭いシャウトにエレキの音が固まって飛び込んできた音で、そこから自分の新しい時代が始まったんよ。レコードは小学校から好きやったんよ。けど、俺もエレキ持ってやりたい!みたいな、身近であり飛び込んで行きたくなる音楽はビートルズから始まった。だからストーンズに出会ったし、キンクスやらどんどん出会ってきたし。遡ってスリムハーポやらマディ・ウォーターズやらに誘ってくれた。その始まりの頃流れたのは「マイボニー」。その「マイボニー」をシーナが選んでくれた、ビートルズの曲として。

―そうだったんですね。そして、アルバム『LIVE FOR TODAY!』のリリース日が2月14日。

これは僕のリクエストでビクターにきいてもらって。どうせ出すならメモリアルな日に出したいと思って、シーナの命日を発売日にした。バレンタインデーでもあるけど。

―5年経つんですよね?

はい。丸5年。

―このアルバムはある意味シーナさんへのラブレターみたいな感じなんでしょうか?

うん。そして、シーナ! 歌いっぷりがすごいね!って。もう怖いもの知らずで歌う、もうそれがロックだぜって。俺の嫁さんではあるけれども、最高に讃えたいと思う。ロックに飛び込んで、最後までロックを歌ってくれて、楽しかったろうねと思うね、シーナも。そりゃもう悔しいけども、今一緒にやれてないことが。もっと楽しいのに、長生きすれば。まぁ辛いこともいっぱい出てくるけど、楽しいこともいっぱいあるけれど。でもシーナはもう最後まで…で…。このアルバムのジャケット写真の顔を昨日見て、本当にそんなに良い写真なのか、スナップだからそんなに分からんけれど、こんな顔で歌ってくれたんやねと思って。

―これがスタジオで撮った最後の写真なんですか?

うん。多分そのビクタースタジオのセッションの時に撮った写真。

―そうだったんですね……。今日はいろいろと聞かせていただきありがとうございました。今日の話を参考に『LIVE FOR TODAY!』を爆音で聴き直します!

こちらこそ本当ありがとう。俺やらもう71歳から72歳に今年なるんだけど、ロックがやれて幸せです。それで聴いてくれるファンの人たち、応援してくれるファンがおるから、お陰でやれとるけれど。それでもやっとる以上はね、欲張りやけんね。今日ロックに興味を持った、この間まで幼稚園で叩きよったような子がいきなりロックを聴いた、そういう若い人たちにも、何とか伝えたいっちゅうか、届いて欲しいって願って。だってロックって、この間ギターウルフと対バンして、女の子の可愛いグループとやったけど、ロックの世界はタイムレス、エイジレス。もうなんちゅうか輝いとるもんが勝ちっていうような世界やけんさ。そんな中に自分らもまだおれることが本当にありがたいし。でも、まだたくさんのファンに会いたいと思って。よろしくお願いします(笑)。




<INFORMATION>


『LIVE FOR TODAY! -SHEENA LAST RECORDING & UNISSUED TRACKS-』
シーナ&ロケッツ
JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
2月14日発売


『LOVE BOX -42nd Anniversary Kollection-』
シーナ&ロケッツ
JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
2月14日発売(完全受注生産)

https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A000232.html



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