ポン・ジュノ監督が語る、『パラサイト 半地下の家族』誕生秘話

第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督(Photo by Rachel Luna/Getty Images)

第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』。裕福な家庭と貧しい家庭を描き世界中で絶賛された本作を手がけたポン・ジュノ監督が、ローリングストーン誌に本作の原点と、タイトルに隠された意味を語ってくれた。

「『男の争い』の監督って誰でしたっけ? たしか、ジュールス・ダッシンですよね? あれは最高の作品だ。名作ですね」

【注:文中にネタバレを含む箇所が登場します。また本記事はアカデミー賞受賞以前に米公開されたものです。】

30分ほど前から、ポン・ジュノ監督は通訳に助けられながら質問に応じている。自身の作品について質問されると、韓国の脚本家・映画監督は慎重に言葉を選びながら、思慮深い答えを出しては、母国語で話すほうが気楽そうな様子を見せる。だが、話題が別の映画になると、監督は通訳を介してのまどろっこしいやりとりを避けるように、興奮気味に素早く英語で答える。ここ数週間にわたって監督は『パラサイト 半地下の家族』——本年度のアカデミー賞作品賞受賞作で、米国では今週末から公開される劇場が増える予定——に影響を与えたかもしれない過去の作品について質問する機会さえ与えてこなかった。こうしていま、前のめりになりながら矢継ぎ早に過去の作品を列挙する監督は、まるで何かに取り憑かれた大学生に変身した50歳の大学教授のようだ。

長編第7作目となる『パラサイト 半地下の家族』の製作に取り組みはじめたポン監督は、アシスタントディレクターたちと面白半分で好きな"階段シーン"を挙げる、というコンテストを始めた。ご褒美として、同作の特別なクレジットをチラつかせながらーー。勝者は、宝石強盗を描いたジュールス・ダッシン監督の『男の争い』だった、と監督は言う。僅差で2位になったのは、階級と帰属意識をめぐる心理学的な性格描写が特徴のジョゼフ・ロージー監督の60年代の作品『召使』。いくつかのヒッチコック作品も次点候補に挙がっていた。「『サイコ』に階段の場面がありますよね。[猟奇殺人鬼の]ノーマン・ベイツの自宅のシーンで、マーティン・バルサムが階段をのぼって……」と言いながら監督は立ち上がり、後ろに倒れる前のバルサムの演技を真似る。次に、監督はトレーを運んでいるような動きをする。「あと、ケーリー・グラントが出ていたあの映画、ミルクが入ったグラスを運んで曲がりくねった階段をのぼる映画もありますよね? あれは恐るべき名作です!」通訳が両目を見開いて監督を見つめるなか、監督は満面の笑顔を浮かべている。

製作中、ポン監督とクルーたちは『パラサイト〜』が“階段映画”である、としきりに語っていた。のぼることもできれば、降りることもでき、ある時は人をつなぎ、ある時は人を隔てる、という階段の建築的構造に由来する2方向のアイデアは、階級意識が濃厚な同作で際立った存在感を放っている。短い階段を降りた先には、キム一家が暮らす半地下のアパートの狭い一室。窓からは、酔っ払いたちが決まって用を足しにくる薄汚れた小路が見える。一家の大黒柱ギテク(ポン監督作品に長年出演しているソン・ガンホ)のギリギリの貧乏生活を元オリンピックメダリストの妻チュンスク(チャン・ヘジン)とティーンエイジャーの息子ギウ(チェ・ウシク)と娘ギジョン(パク・ソダム)が宅配ピザの箱を折りたたむ内職の仕事で支えている。多くの人同様、貧困と背中合わせの生活だ。

Translated by Shoko Natori

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