ポン・ジュノ監督が語る、『パラサイト 半地下の家族』誕生秘話

「そうなんです。脚本を書いている時から、私自身も次に何が起きるかよくわかっていませんでした」と監督は声を出して笑いながら言う。「こっちがホラー部分で、こっちがコメディ部分です、のように俳優のために脚本を2部構成にしたわけではないんです。それに、製作スケジュールもありますから、全部を別々の時期に撮影しなければいけません。だから、もういいや。 と思ったんです。私にとってのストーリーの中心は常に登場人物です。彼らはモンスターではないかもしれませんが、往来で会う友人やご近所さんのような普通の人々です。映画のトーンがブラックコメディから泥棒映画、さらにはホラーへと変わるにも関わらず、これが一貫性のあるひとつの塊だと思えるのは、登場人物のおかげです。俳優たちには、『あなたたちがすべてをつなぐ線です。私は、人間の行動を記録するだけ』としか指示していません」

ポン監督は、もっと簡単にジャンル分けできる前作たちと比べて、『パラサイト〜』が少し違うことも認めている。監督は、初めてタイトルを口にした時に生じた混乱について教えてくれた。「タイトルのせいで、『ボディ・スナッチャーズ』的なSFふうの映画だと勘違いされたようです!」実際、同作のタイトルは、この数カ月にわたって監督がこなしてきた上映後の質疑応答で何度も質問として挙げられた。必ず誰かが「ここでのパラサイトとは、具体的に誰のことでしょう?」と質問するのだ。

「マーケティングチームからの初めての質問もこれでした」と監督は言った。「『労働者階級が全員パラサイトだと言いたいのですか!?』のように、タイトルがほのめかしていることに居心地の悪さを感じる観客がなかにはいるだろう、と懸念を抱かれたのです。地下鉄の乗客特有の臭いに関するパク・ドンイクのセリフもそうです。ほとんどの観客は、映画を観たら地下鉄で帰宅しますから『観客の大半を怒らせてしまいます!』と不安になったのでしょう」

「そこで私はマーケティングチームに『ご覧の通り、富裕層は労働という意味においてパラサイト(寄生者)です……彼らは自分で運転もしないし、何もしませんから』と言いました」監督は続ける。「『それに、ある家庭がほかの家庭と一体化し、雇用主を食い物にして生きているケースだってあります……』ですから、質疑応答で誰かに質問されれば答えますが、観客のためにタイトルを説明することはしないようにする、とマーケティングチームに伝えました。タイトルが誰を指しているかは、観る人が考えてくれればいいのです」

持てる者と持たざる者を隔てる溝を埋めることは可能か? という質問に対し、ポン監督は微笑む。「それに対する私の答えが、この映画のラストだと思います。私は誠実でありたかった。いま、誰もが感じている恐怖に対して正直でいたいと思いました」


『パラサイト 半地下の家族』
http://www.parasite-mv.jp/

Translated by Shoko Natori

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