映画『パラサイト 半地下の家族』アカデミー賞作品賞受賞が革新的である理由

第92回アカデミー賞にて『パラサイト 半地下の家族』で作品賞を受賞したポン・ジュノ監督(Photo by Evan Agostini/Invision/AP/Shutterstock)

ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』は、栄えある第92回アカデミー作品賞を受賞した初の外国語映画となっただけでなく、文化の壁を新たに取り壊すのに一役買った。米ローリングストーン誌のコラムニストが受賞式の模様やいかに本作の受賞が革新的であったかを回想する。

自分が歴史を変えることをジェーン・フォンダは知っていた。フォンダの表情をぜひ見てほしい。プレゼンターとして作品賞を発表する直前、一呼吸置いて微笑んでいるではないか。その直後の出来事を知ったうえでフォンダの表情を見直すのは、リアルタイムで目撃するのと同じくらい楽しいものだ。だから、そのシーンをもう一度だけ見れたら見て欲しい。

第92回アカデミー賞授賞式はおおむね予想通りの結果になるだろう、と誰もが思っていた。他の映画賞をさらった俳優4人に与えられたアカデミーの栄誉も予定調和だし、想定の範囲内だった。ブラッド・ピットのスピーチ(魅力的で政治的)、ローラ・ダーンのスピーチ(刺激的で政治的)、ホアキン・フェニックスのスピーチ(挑戦的で政治的)、レニー・ゼルウィガーのスピーチ(これは……どう表現しよう?)には心地良いまでの親しみやすさがあったし、授賞式でのスピーチもこの数カ月にわたって彼らが壇上で発してきたコメントに比べると少しは印象的かな、と思えた。ジュリア・ルイス=ドレイファス、ウィル・フェレル、マーヤ・ルドルフ、クリステン・ウィグといったプレゼンターたちも期待通りだったし、スティーヴ・マーティンやクリス・ロックといったコメディアンたちも“司会者なきイベント”の司会者としてカムバックを果たした。典型的なものから鳥肌ものまで、あらゆる音楽シーンを網羅した歌曲賞のパフォーマンスもあった。たしかに、ミスター・ロジャースことフレッド・ロジャーズのような赤いカーディガンを羽織ったジャネール・モネイがオープニングにふさわしい完璧なダンスパフォーマンスを披露しながら「オスカーって白人だらけ!」と歌い、最前列のオーディエンスの前で変人っぷりを全開にするなんて誰も想像しなかった。ましてや、エミネムが17歳のヒットを披露するなんて、誰が想像しただろう。だが、これらはすべて“大胆かつ華やかな序章”と“一風変わっているが、スベる心配がほとんどない妥当な選択肢”でしかなく、21世紀のアカデミー賞授賞式に不可欠な要素だと言っていいだろう。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』よりもプレゼンターのキアヌ・リーブスとダイアン・キートンを紹介した時のほうが出番が多かったケリー・マリー・トランのように、有名なプレゼンターの紹介にも有名人があてがわれた。

『パラサイト 半地下の家族』が国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞した時も、とくに誰も驚かなかった。同賞が昨年『ROMA/ローマ』に与えられたように、これは“あなたの映画は大好きだけど、あまり出しゃばったマネはしないでね”という審査員のメッセージが込められた一種の残念賞的なものであることをシニカルな人々はわかっていたから。続いて『パラサイト〜』は脚本賞を受賞。脚本賞は、“ビッグな賞”をより一般ウケする作品のために温存したい審査員が極めて革新的な作品に贈る安全な逃げ道のような賞である。その後、評論家の意見や過去の受賞作にもとづいて『1917 命をかけた伝令』のサム・メンデス監督の手に落ちるだろう、とささやかれていた監督賞にポン監督の名前が挙がった。もしかしたら、ひょっとしたら、韓国映画が[作品賞を]取るかも……という期待がよぎった。だが、読者の皆さんも覚えているだろう。アルフォンソ・キュアロンが昨年『ROMA/ローマ』で監督賞を手にしながらも、作品賞を逃したことを。それでも、淡い期待の炎が消えることはなかった。

Translated by Shoko Natori

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