1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究

鳥居真道の所有するロネッツ唯一のアルバム(再発盤)



ここで改めて「Be My Baby」を聴いてみると非常にフレッシュに感じられないでしょうか。これまで見てきたように「Be My Baby」のパターンはフィル・スペクターのプロデュース作品に頻出のリズムではあるものの、それまでの曲と異なる新鮮味に溢れています。

「Be My Baby」ではシェーカーもしくはマラカスが常に8分音符を刻んでいます。ドラムも「ンタタタ」という8分音符のフィルを2小節ごとに入れています。ベースはハバネラではなく「タタタタタンタン」というパターンを演奏しています。つまり「Be My Baby」のグルーヴはハバネラもしくはバイヨン的なに拠るものではなく、8分のパルスに拠るものではないかと考えています。当時ブームであった「ツイスト」的なハネないイーブンの8分のパルスに中南米的なパターンをはめ込んだことが「Be My Baby」のリズムにおける肝であるように感じています。

冒頭で 「60年代のアメリカン・ポップスを代表する名曲に漂うラテンの残り香をリズムの側面からくんくん嗅いでみませんか!」と勧誘しましたが、実際のところ、リーバー&ストーラーから受け継いだであろう書割の異国情緒は後退しており、その残り香は非常に微かなものです。キューバやブラジルといった土地の香りが消失し、新鮮なものとして生まれ変わるこうした過程こそがリズムのポップス化であると言えるかもしれません。そう考えると、オフスプリングの「Pretty Fly」なんかは一般化してポップスの地中に埋もれたラテン的なリズムを戯画的に掘り起こした例と言えそうです。



参考文献
八木啓代、吉田憲司『キューバ音楽』青土社
中村とうよう『なんだかんだでルンバにマンボ : 中村とうようのラテン音楽案内』ミュージック・マガジン
中村とうよう『大衆音楽の真実』ミュージック・マガジン
油井正一『ジャズの歴史物語』スイング・ジャーナル社




鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖

トリプルファイヤー公式tumblr

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