漂泊の詩人、下田逸郎の魅力をプロデューサー寺本幸司が語る

映画『火口のふたり』の主題歌になった「早く抱いて」

田家:続いて7曲目。伊東ゆかりさんで「早く抱いて」。去年の8月に公開されてキネマ旬報の日本映画第一位に選ばれた映画『火口のふたり』の主題歌であります。この映画は、毎日新聞の大阪シネマフェスで音楽監督賞を受賞しました。下田さんの曲が3曲使われていて、全体の音楽監督もされている。

寺本:監督の荒井晴彦さんという脚本家は昔から知っているんですけど。下田のある既存の曲から発想するという書き方をする方で、今まで彼の監督したものとか脚本で書いたものとかには下田の曲がいっぱい使われているんですね。今回は究極という言葉を使いたいんですけど、下田の曲を見事に使って出来上がった作品が今回の『火口のふたり』ですね。

田家:この映画は原作がありまして、直木賞作家の白石一文さん。監督が脚本家でもある荒井晴彦さんは1947年生まれ。『Wの悲劇』や『探偵物語』の脚本なんかもお書きになられている方。この映画はいわゆるR-18指定で、濡れ場が多いのですが、その中に社会や政治的な何かが見え隠れするっていう意味では、最近の日本映画の中ではあまり見ないタイプの作品かなと思いましたけど。

寺本:この映画が出来て下田から話を聞いて映画を見に行ったんですけども、その映画がキネマ旬報の一位になるっていうことを聞いた時に本当に嬉しかったんですよ。この前下田のライブに行った時に荒井さんもいらしていて、僕は滅多にしないんですけど走り寄って「すごく嬉しいです!」って言って握手しました。初めてでしたよあんなこと。それくらい、この時代の中でこういうことが起こるっていうのが嬉しいことでしたね。

田家:出演者も男と女の2人だけですもんね。この映画は関東ではまだ公開しております。

寺本:これでもっと映画館も増えるといいんですけどね、もっとたくさん見て欲しいです。

田家:この「早く抱いて」は、オープニングでこの映画の雰囲気を伝える重要な曲として使われております。この『火口のふたり』を、若い頃にこういうのを観たなあって思って見てたんです。後半になって思い当ったのが、若松プロダクションの映画だったんです。終わった後に荒井さんのプロフィールで若松プロダクションにいらっしゃるっていうのを知って、「あ、伝統なんだな」と思いましたね。男と女の崩れる寸前のギリギリの色っぽさ、そしてそれが世の中と関係しているんだという事が暗に分かる、一癖も二癖もある感じ。

寺本:田家さんと今日その話をして、本当に僕は嬉しいですね。この曲がそういう風に聴けるなんてサイコーですよ。

田家:今日は東京キッドブラザースの話もできたし僕も嬉しかったです。というと、ここで終わっちゃいますけど(笑)。お聴きいただいたのは、目下公開中の映画『火口のふたり』の主題歌。伊東ゆかりさんの「早く抱いて」でした。

田家:『J-POP LEGEND FORUM』寺本幸司Part.3、日本の音楽プロデューサーの草分け寺本幸司を特集する1カ月。今週は下田逸郎さんのお話を色々と伺いました。流れているのは、この番組の後テーマ竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。このまりやさんの歌詞で、彼の生き様っていう言葉が出てくるんですけども。下田逸郎さんの生き様っていうとどう話されます?

寺本:人生は旅だって、東由多加とニューヨークに行って。それはもうすごい時間だったと思うんですよ。あの時代にあんな経験をした人はいないでしょう。そういう中からどんどん1人になって、更にそこから始まる旅っていうのが、彼の全ての風景であり情念でもあり、足元でもある。僕もこの番組に出させていただいてつくづくそう思いましたね。

田家:この番組は、分かる人にだけ分かるという話はしないようにと思っているんですけど。それでもいいかなって思う時がたまにあって、今日はそんな感じでした。当時のサブカルチャーのど真ん中にいた人は、その後の自分の時間の中で当時とどう折り合いをつけるのかが大変だったと思うんですね。変わっちゃった人もいるし、変わらない人もいるし、捨てた人もいる。下田さんはその中でそれらを純化し続けてきた人でしょうね。

寺本:今回は僕を特集していただいてこの話をしているんですけど、当時じゃないんですよ。映画『火口のふたり』もそうなんですけど、あの頃のサブカルチャーが今逆に光を放っている時代だという実感があるんです、それが僕の元気の素ですね(笑)。

田家:下田さんの「ひとひらコレクション」にこういう告知がありました。『百億年』という映像作品を作りました。自分の歌物語です。2020年春にはDVDになると。どんな作品なんでしょうね。

寺本:僕はもう見たんですけど巨大な旅番組っていう感じがしましたね。『百億年』の億っていう漢字は記憶の憶だって言っているんですよ、それがいいですね。下田のこだわりと深さのような気がしますね。

田家:来週は寺本さんの中にある、桑名正博さんの記憶を辿りなおして頂きます。


<INFORMATION>

寺本幸司
音楽プロデューサー等。浅川マキを皮切りに、りりィ、桑名正博、下田逸郎など、個性的なアーティストを多く手がける。

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソナリティとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210
OFFICIAL WEBSITE : https://cocolo.jp/
OFFICIAL Twitter :@fmcocolo765
OFFICIAL Facebook : @FMCOCOLO
radikoなら、パソコン・スマートフォンでFM COCOLOが無料でクリアに聴けます!





RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE