「ヒット曲の法則」でAIがアーティスト発掘、米新レーベルの挑戦

「データは市場の動きを反映したもの」ーーカール・フリッカー(A&Rディレクター/RCA)

Arista RecordsでA&Rリサーチ部門の副責任者を務めるライアン・ファウスは、Snafuのコンセプトは業界にとって良い刺激になると見ている。スカウトたちが新たな素材を発掘するためにチェックするコンテンツが急増しているからだ。「次のスーパースターやヒット曲を見出すために我々が認知すべき音楽の量は、いつも一定ではありません。そこでテクノロジーが、大量のコンテンツをふるいに掛けるための有用なツールになってくれると思います」と彼は言う。「結局のところ、一般的にも業界でも、新しいアーティストやヒット曲の発掘にコンピューターやAIを使用することに対する信頼度がまだまだ低いのです。私個人としては、データ利用との組み合わせが素晴らしい結果を生むと思います。ただし、楽曲やアーティストの将来的な可能性を判断するにあたり、A&R担当者の耳に敵うものはないと信じています」。

ファウス曰く、4〜5年前ならテクノロジーに対する全面的な依存には批判もあっただろうが、現在の各レーベルは膨大な数の新曲をふるいにかけて競争を勝ち抜くための新たなツールの必要性を認識しているという。「読みと解釈と情報の扱い方、特にタレントの見極め方という意味で、音楽業界はここ数年で急激に進化しました。しかしタレント発掘のプロセスにおいて、まだ進化できる余地はあると思います」とファウスは言う。「市場で起きていることをできる限り把握するためのツールやメソッドの開発に関して、レーベルとディストリビューターが激しく争っています。これからもますます競争が激しくなるでしょう」。

「数年前までは、商談を始めてから成立するまでに数ヶ月かかったものです」とAtlantic RecordsのA&R担当副責任者であるヤーシエル・“サクセス”・デイビスは言う。「今は消費量がかなり多いため、もっとスピードアップしています。だからこそテクノロジー企業の存在感が大きくなってきたのです」。

Snafuは、一般的なレーベルよりも積極的にAIとデータ分析を採用しようとしている。しかしニッキー・ミナージュやワン・ダイレクションらのヒット曲も手がけた同社のクリエイティブ・ディレクター兼ソングライター兼プロデューサーのカール・フォークは、タレントスカウトの役割を完全にアルゴリズムに置き換えるつもりはない、と強く否定した。

「数字だけに注目するのは、大きな誤りです」と言うフォークは、アルゴリズムをA&R担当チームの第三の目に例えた。「アルゴリズムはあくまでも新たな音楽を発掘するための補助ツールであり、音楽自体をどうこうするものではないと見ることが重要です。私たちに聴き分ける力がなければ、目も狂うでしょう。私たちはアルゴリズムに“これはヒットする”と断言させるような使い方をしていません。私たちはアルゴリズムの絶妙な使い方ができていると信じています。一方でアルゴリズムは、次のヒットを予見するための市場動向のデータを素早く提示してくれます。今やそれこそがとても重要なのです」。

Translated by Smokva Tokyo

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