ジョン・ボーナムから考える「リズム」の真の美しさ

ジョン・ボーナムのドラムをデジタル表示。数学的な正確さを与えていくと……。

リック・ベアトというアメリカ人YouTuberが面白い実験をしている。彼はプラチナアルバムも獲得をしたことがあるキャリア豊富なプロデューサーであるが、活動の軸をYouTubeに移してから、豊富な経験に基づいた数々の動画を公開している。中でも「HOW WOULD JOHN BONHAM SOUND TODAY? (Quantized)」という動画。つまり「ジョン・ボーナムのドラムは今日どのように聴こえるのか」という動画であるが、これはジョン・ボーナムのドラムをデジタル環境で表示し、ビート・ディテクティブで数学的な正確さを与えるという実験である。

HOW WOULD JOHN BONHAM SOUND TODAY? (Quantized)


無加工の状態でジョン・ボーナムのドラムをグリッド上で聴くと明らかになるのだが、彼のドラムは全く一定ではない。極めて人間的なズレが散見され、数小節もすると、ビートは開始時よりも数BPM前後する。史上最高のドラマーとされる彼のビートがここまで奔放なのは、デジタル上でここまで解剖しないと見えてこない部分だろう。

正確性と引き換えに、ジョン・ボーナムのドラムに光るもの

さて、このビートを素材にグリッドに沿ってリズムを作り直す実験だ。スネアやキック、細かな要素を細切れに寸断し、定規にあわせ数学的な配置に再構築していく。この作業を経て、全くズレがなくなった途端、ジョン・ボーナムのドラムは輝きを失ってしまうのだ。もちろん音色は格別である。紛れもなくあのジョン・ボーナムのサウンドだ。但し何かが決定的に欠けている。さも人力ドラムマシーンと化しているとでも言おうか、私には演奏者の表情が全く浮かんでこない、人間的な魅力が著しく損なわれたサウンドに聴こえた。

「真に正確なリズム」を真っ向から否定するわけではない。ジャンルや狙う効果によっては大きな武器になる。だが2001年にビート・ディテクティブが登場した時期と、アメリカのチャートからロックが姿を消していった時期は符合する、とリック・ベアトは指摘する。これは全くの偶然だと言えるのだろうか。J Dillaやディアンジェロが人間的な、心地よいズレを伴うリズムをクールだと証明してから20年以上経過するが、そろそろロックも生理的なリズムに向き合ってもいいのかもしれない。

Edited by Aiko Iijima

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