KOHHのクリエイティブ・ディレクター、高橋良が語るプロデュース論

高橋良が考えるエンターテインメントの頂点とは?

ー音楽性はどうでした? ちょうどUSでトラップの波が来ていて、KOHHの声の出し方やフロウはUSの新しい波を意識した上でのオリジナリティだったと思うんですが。

高橋:最初にKOHHがスタジオに来た時の話に戻りますが、まず思ったのが、この子は日本語ラップを聴いてラップを始めたんだなっていうことでした。それで、「まずこのオススメを1回聴いてみたら?」って言って、ディプロマッツの『Diplomatic Immunity』とかファボラスの『From Nothing To Something』とか、CDを5枚ぐらい貸したんですよ。そしたら、次に来た時には「全然アメリカでした」ってなってて。その時に、レコーディングの時の、声を喉で出すのとお腹で出すのの割合を徹底的に教えたんですね。そこのバランスで声がこういう風になるんだよって。彼はすぐにそれをできるようになりましたね。でも、それ以上何かを教えたということはあまりなくて、自分たちで勝手に盛り上がって新譜をチェックしてる中で、「この方向性で作ろう」とか、僕がやったのはそのくらいですよ。





トラップをやりだしたのだって、Dutch Montanaが僕らの地元の王子にあるバーで働いてて、よくそこに飲みに行ってたら、「トラップっていうのが最近あって」って、こっちは飲みに来てんのにひたすら自分の曲を聴かせてきたんですよ(笑)。それでスタジオに連れていって、KOHHたちと一緒に曲を作り始めたら、もうみんなトラップばかり作るようになってたんです。そのうち自分らでトラックも作るようになって、「iPhone5」「Hello Kitty」はKOHHが自分で作ったトラックだし、「Dirt Boys」はLootaが作ったトラックなんです。なので、音源は8割方KOHHが完成させてますよ。自分的にはミュージック・ビデオが一番の見せ場だと思って取り組んできました。インディペンデントのレーベルのマーケティングではミュージック・ビデオが一番費用対効果が高くて伝わりやすいっていうのが、「Tequila, Gin, or Henny」の時によくわかったんで。







ーKOHHが活動の目を海外に向けるようになったのは?

高橋:1stアルバムの『梔子』がいまだに一番人気なんですよ。僕は3枚目の『DIRT』が一番好きなんですけど、『DIRT』制作当時に、これを日本のマーケットで普通にリリースしても、一般的に理解されるのは絶対に無理だなと思って。YouTubeでも海外からのコメントも出てきてたので、何とか海外にリーチしたいなと思ってたんです。そのタイミングで、元々日韓でなんかやろうと言っていたJayAllDayから「It G Ma」のKeith Apeのヴァースとフックが入ったプリプロが送られてきて、KOHHとLootaにやらない?って言ってきました。聴いた瞬間、「これ絶対アリ」って思って。これってそもそも、韓国と日本の間で盛り上がればいいかなくらいに思ってリリースしたんですけど、アメリカで受けちゃって、ツイッターで「It G Ma」ってエゴサーチすると、5秒置きに10人ぐらい、どの時間やってもずっとつぶやいてる状態。それが2カ月以上続くんですよ。アメリカでバズるっていうのはこういうことなんだなと知りました。音楽性が難しい方向に行ってたってのもあったし、日本人が逆輸入を好きなのも知っていたので、そうやって売り込んでいくしかないと思って。それで、ヨーロッパやアメリカで活動するようになりました。







ー2019年2月の5枚目のスタジオ・アルバム『Untitled』のリリース時にも面白いことをやりましたよね(注:SHIBUYA 109前に突如出現した特設ブースで、Mアトラクション型劇場シート、MX4D(R)モーションシートに乗りながら、体感式ベストを着用し、VRヘッドセットでミュージック・ビデオを鑑賞できるというもの)。

高橋:自分的には一応あれが最後の映像作品です。ミュージック・ビデオってだいたいが16:9のアスペクト比で、それに飽きちゃって。YouTube自体が16:9なんで仕方ないっちゃ仕方ないんですけど、ずっと同じだなと思って。そろそろそこを出てもいいんじゃないかということで、自分的な問題提起をしてみたんですよ。“視聴” することから、“体験” するということへ問題提起をしたところで逃げました。



ー今は建築関係をやられていると聞いたのですが、建築に興味を持ったきっかけはあったんですか?

高橋:元々現代アートが好きなんですね。その中でも特にインスタレーションとかハプニングってジャンルが好きで。わかりやすいところだと、チームラボのお台場のヤツとかはインスタレーションです。インスタレーション自体は60年代くらいからあったんですけど、ただ作品を観るだけじゃなくて、中に入って体感できるっていうのがこれからの時代には必要だなと思ったんです。体感するというのがネクストレベルなら、作品の中に入れるよりも、そこで時間を過ごすとか暮らすとか、それが究極なんじゃないかと思ったんです。それで今は、個人宅、宿泊施設、店舗などを中心にアーキテクチャーと、それ以外はランドスケープの勉強に集中してます。僕が思うエンターテインメントの頂点って二つあって、一つはホテル業界。もう一つは、ちょっと昔までのハリウッド映画なんですよ。だったら、宿泊できるシアターがあったら最高なんじゃないかと思って、ホテル型のシアターを作ったりしてます。

髙橋良が選ぶ、BEST of the YEAR

BEST ALBUM
Billie Eilish - When We All Fall Asleep, Where Do We Go?
Kanye West- Jesus is King

BEST SONG
Pop Smoke - Welcome to the Party
Kanye West - On God
TONES AND I - DANCE MONKEY

BEST LIVE
FKJ - Live at Salar de Uyuni
Kanye West - Sunday Service

BEST ARTISTS
Billie Eilish
Kanye West


高橋良
318(スリーワンエイト)名義で音楽プロデューサー、Eillyhustlehard(エイリーハッスルハード)名義で映像ディレクター、現在では多方面でクリエイティブ・ディレクターを務める。2000年頃からトラックメイカーとしてキャリアをスタート。2001年に渡米、帰国後に音楽プロデューサーとしての活動を開始し、2007年にプロデュース・チーム「GUNSMITH PRODUCTION」を始動。数々のヒップホップ・アーティストのアルバム・プロデューサーを務める傍ら、映像ディレクターとしても活動。2012年からはアーティストKOHHのクリエイティブ・ディレクターを担当している。

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