ゼイン・ロウが語る2010年代「音楽の環境はより健全になり、人々の意識も変わった」

「音楽への恩返し」インタビュアーとしての信念

ーあなたは昔から曲をかけるだけではなく、アーティストのインタビューにも力を注いできましたよね。スタジオの中でやることもあれば、電話を通してやることもある。インタビューを行う際、あなたが大事にしていることは何ですか?

ゼイン:僕が大事にしているのは、そのアーティストが何を言いたいのか――つまり彼らの「真実」。彼らが今という時間の中でどういう位置に立っているのか、もしくは腰掛けているのか。それを言葉にして伝え、ファンとストーリーをシェアする手助けをするのが僕に与えられた機会なんだ。その意義を真剣に受け取め、ありがたく思ってやっているよ。インタビューをする時は、まずは音楽から入っていく。音楽を聴いて受けるインスピレーションを入口として、そこからアーティストの中に入り込み、人間的なストーリー、彼らが一人の人間として言いたいことにたどり着けるようなインタビュアーでありたい。DJを始めた頃は、音楽づくりのプロセスばかりに目が向いていた。でも今はそのアーティスト側の視点に思いを寄せて、「何がこういう音楽を作らせたのだろう?」と考えるようになった。そのストーリーをアーティストが心を開いて喋ってくれるよう、それをなるべく多くファンに知ってもらえるよう、できる限りの“honesty(誠意)”と“curiosity(好奇心)”を、たとえ一瞬だとしても忘れない。それから、みんなが知りたいと思ってる好奇心を満たしながらも、アーティストに対する健全な程度の“empathy(共感、理解)”を大切に。いつもそう思っているよ。

ーあなたがBeats 1に移ってきたばかりの頃、リック・ルービンにインタビューしていたのが今も印象に残っています。

ゼイン:あれはRadio1の最後の頃だよ。Shangri-La(リックのスタジオ)のツアーをしてもらった時だね。

ーそうでしたか。他にも大勢のアーティストにインタビューしてきたと思いますが、強く印象に残っている人を挙げてもらえますか。

ゼイン:いっぱいあるけど、ジェイ・Zとの対話はどれも印象深い。インタビュー相手として本当に興味深く誠実で魅力的なので、彼と話す機会をいつも楽しみにしている。2013年にイギリスで行ったカニエ・ウェストとのインタビューもよく覚えてるよ。Beats 1に移ってからだとアデル。とても深いところまで掘り下げられた、忘れられないインタビューだった。ウィークエンドにようやく話を聞けた時のことも忘れられないよ。あれはいまだに彼がカメラの前で行った唯一のインタビューなんだ。スタジオで話し始めて6分くらいで、すごくいい話ができていると自分たちでも感じた。彼から「もうインタビューは始まってたの?」と聞かれたくらいさ。そのくらい、自然に会話が成り立っていた。





ー素晴らしいエピソードばかりですね。

ゼイン:カニエとは今年、ワイオミング州でまた話を聞くことができたよ。他にも2019年だったらトム・ヨーク、ボン・イヴェールとのインタビューが印象的だ。レディー・ガガとの初めての会話も、お気に入りの一つだよ。そう考えると、本当に恵まれていると思う。相手と腹を割って話すことでこちらも多くを学べるからね。何百万もの人々にインスピレーションを与えるような音楽を作れるアーティストっていうのは、やっぱり人間としても魅力的なのさ。僕にとって音楽は、若い頃からずっと友人のような存在だった。つらい時期を乗り越えられたのも音楽のおかげだ。逆に人生の誇らしい瞬間を彩ってくれたサントラでもあった。だから、そんな音楽にお返しがしたいんだ。アーティストとファンの相互関係を築く手伝いをすることでね。そのインタビューがアーティストやファンにとっても、僕自身にとっても、音楽を体験する上での価値をプラスするものになってほしいんだよ。



Translated by Kyoko Maruyama

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