新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会不安と音楽業界の動き

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COVID-19の感染拡大を受けて3月1日に横浜アリーナで無観客ライブを行なったBAD HOPのT-Pablowさんは「俺等らがこのライブをこうして開催したのは、コロナウイルスのせいでネガティヴな気持ちが蔓延しちゃうのが嫌だったんだよ。例えば、このウイルスが最初に広まった中国の人をネットで攻撃したり、心ないことを言ったりさ。不安な気持ちからネガティヴになって、架空の敵を作って攻撃するなんて、そんなの間違っている。俺らは画面越しからポジティブなメッセージを発信したかった」と語っています。彼等はメンバー個人が運営するグループで、しかもこの公演にはスポンサーもついていないため、1億円を超える借金を負うとのことです。普通に公演をキャンセルすれば負債は3〜4千万円で済んだところをあえて無観客ライブを決行したのには、こうした強い思いがあったのです(彼等はこの今CAMPFIREでクラウドファンディングを行なっています)。また、前回の連載でも取り上げましたが、米津玄師さんも公演中止に伴ってツイッターで「混乱に乗じた悪質なデマや差別的表現に加担してしまわないよう、僕らだけでもなるべく冷静に努めましょう」とメッセージを出しています。前回書いたように、音楽は差別に対して明確にNoと言ってきた歴史があります。こうした危機的状況においても、そのことは忘れないでいたいと思います。



また、現在多くの公演キャンセルなどが相次ぎ、関わっている多くの人たちが苦境に立たされています。音楽は、それ自体は災害や感染症そのものには無力かもしれません。しかしこれまで、災害後のメンタルの支えとして、またイベント等の収益からの義援金など、様々な形で力になってきました。この苦境においては、アーティストとそれを支える人たちの活動を、できる範囲でかまいませんので、ぜひ応援していただければと思います。そしてまた、苦しいのは音楽関係者だけでなく、様々な立場や職業の人たちからの悲鳴も聴こえてきます。こうした事態に至った一因には、「いろんな人がいる」「世界は多様である」という事実を見ていなかったことにもあると思います。社会や経済が動くと、必ずメンタルも影響を受けます。そのときに、スティグマを否定すること、そして「いろんな人がいる」ということも考えていただければと思います。

参照
Coping with stress during the 2019-nCoV outbreak
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/coping-with-stress.pdf?sfvrsn=9845bc3a_2
Social Stigma associated with COVID-19
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/covid19-stigma-guide.pdf
BAD HOPの「借金1億円」無観客ライブを支援、クラウドファンディング実施中
https://www.cinra.net/news/20200302-badhop



<書籍情報>




手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/


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