ベン・ワットが語る「死」の感覚と奇妙な人生、ピアノと向き合った新境地

ーそんなシンプルな音像の中で、特にピアノやエレピ、ボコーダー、シンセなど鍵盤楽器の音がとても効いています。

ベン:僕が心がけたのは、とにかく1つのシンセサイザーを全編にわたって使うことだった。少し前に修理に出していたローランドのJUNO-106という古いアナログ・シンセが、戻ってきたら素晴らしいサウンドに生まれ変わっていたんだよ。もう、使いたくて仕方なかったわけ(笑)。プリセット機能は一切使わず、文字通り一から手動でプログラムしていったし、色々いじっていく中で僕らが「いいな」と感じたらすぐそれをレコーディングし、そして次の音をまた探す……ということを繰り返しながらオーバーダビングしていったんだ。

ーじゃあ、例えば「Retreat To Find」や「Knife In The Drawer」に入っているメロトロンっぽい音も……。

ベン:あれもJUNO-106で作ったよ。

ーそれってかなり手間暇のかかる作業だったと思うのですが、あえてそうした理由は?

ベン:今、世の中に出回っているレコードは、似たようなプラグインやシンセのプリセット音、サンプラー音源が使われていることが多いような気がしていてね。あまりにも多くのレコードが、同じようなサウンドになっている。だから僕らとしては、他とは違う特徴のあるサウンドにすることを課題としたかった。手動でシンセの音作りをして、一つの空間にミュージシャンを集めて演奏し、ネットから拾い集めた音声を切り刻んで重ねていく。そうすることで、僕らだけのサウンドスケープを構築していくことができたんだ。



ーレコーディングには、前作に引き続きママス・ガンのレックス・ホラン(Ba)と新たにエヴァン・ジェンキンス(Dr)に加え、「Irene」ではロウ(Low)のアラン・スパーホーク(Gt)が参加しているそうですね。

ベン:アランとは15年くらい前、ロンドンにあるラフ・トレードのオフィスで初めて会った。ちょうどロウの新作がリリースされるところでね。当時の僕はDJをやっていて、エレクトロニック・ミュージックにかなり傾倒してはいたけど彼らのサウンドは大好きだった。それで、リミックスをやらせて欲しくてアランに尋ねたところ、彼はとてもオープンマインドな人ですぐ快諾してくれたんだ。たしか僕のダンス・レーベル、Buzzin’ Flyから出したのかな。

それ以来友だち付き合いを続けてきたのだけど、『Fever Dream』のリリース・ツアーでミネアポリスに行くことがあってね。その時オープニングアクトとして彼にソロで出てもらったら、素晴らしい即興のギター・インストを披露してくれた。それで彼に「いつか僕のアルバムでもそういうのをやってよ」って。アランも「いいね、やろう」と返してくれて、そのことを「Irene」制作中に思い出して連絡を取ったんだ。



ベン・ワットがリミックスした「Tonight」(ロウの2002年作『Trust』の収録曲)

Translated by Mariko Sakamoto

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