ベン・ワットが語る「死」の感覚と奇妙な人生、ピアノと向き合った新境地

ーもう一つ、さっきお話ししてくださった「怒り」や「無力感」について、もう少し詳しく教えてもらえますか?

ベン:我々は民主的な投票の機会を与えられているけど、実に無意味なものだとたまに感じることがあって。何に一票を投じたとしても、翌日にはその政策がひっくり返ってしまうことってよくあるだろ?(苦笑)。それに、政治の世界の右傾化、ポピュリズムの台頭も気になる。世界の様々な国で、独裁寄りのリーダーが政権に就いている。国際主義や団結の精神から世界は離れつつあって、それは非常に残念なことだと思うんだ。「Figures In The Landscape」という曲には、そうした気分が間違いなく反映されているよ。

ただ、あの曲のコーラス部分では、“いや、君には選ぶことが可能なんだ”とも歌っている。その選択肢とは、今の状況を祝福し甘受するのか、あるいは現状に不満を唱え何らかの形で対処するのか、ということ。そう、このレコードは「無力」の地点……精神的に落ち込んだり、何かに落胆した感覚からスタートした楽曲が多く収録されていると思う。その状況をどうやって変えたらいいだろう、どうすればそこから希望や愛を見出し立ち直ることができるのだろうって。「行動を起こそう」という、ある種のメッセージが備わったレコードなのかもしれないね。



ー4月に日本で行われる公演の見どころや、これまでとの違いについてもお聞かせください。今回はトリオで来日する予定ですか?

ベン:うん。レックス・ホーランとエヴァン・ジェンキンス、アルバム作りに参加したのとまったく同じ顔ぶれで日本に行くよ。ダブル・ベースにドラムスにピアノ、そして時々僕がギターを弾くスタイルだけど、ペダルやトリガーをたくさん使ってアルバムの音響やテクスチャーを可能な限り再現するつもりだ。

ーとても楽しみです。これまでの来日公演では、『North Marine Drive』からの曲も披露してくれました。35年以上前にリリースされ、今も世界中で愛され続けているあのアルバムについて「特に歌詞はとっても繊細で無知なところがある」と以前おっしゃっていました。この作品を50代になって歌うことで、何か新たな魅力など発見することはありますか?

ベン:当時の自分が、世界をどんな風に見ていたか。その感覚に再び触れるような感覚がある。それと最近の曲をセットリストに並べることで「パースペクティブ」がもたらされるというか、人生を見渡せるような広がりと奥行きが生まれると思うんだ。僕の公演を観にきてくれる人たちも、そこに魅力を感じてくれているんじゃないかな。僕と歳が近い人も多いし、彼らと一緒に今までの人生を振り返ることになる。20代から30代、そして40代、50代と僕らは常に変わり続けてきた。そのことを確かめ合うのは、とても素敵な体験なんだよね。


『North Marine Drive』収録の「Some things don’t Matter」




ベン・ワット
『Storm Damage』
発売中
試聴・購入リンク:
https://caroline.lnk.to/Watt



ベン・ワット来日公演
2020年4月21日(火)恵比寿 LIQUIDROOM
2020年4月22日(水)梅田 Shangri-La
OPEN 18:30 / START 19:30
チケット:¥7,000(税込/All standing/1Drink別)
https://www.creativeman.co.jp/event/ben-watt2020/

Translated by Mariko Sakamoto

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