ノエル・ギャラガーのEP三部作に見る、ダンスビートへの接近とデヴィッド・ボウイの影

ノエル・ギャラガー(Photo by Mitch Ikeda)

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズが、2019年に発表した『ブラック・スター・ダンシング』『ディス・イズ・ザ・プレイス』に続く第3弾EP『ブルー・ムーン・ライジング』を3月6日(金)にリリース。52歳の今も音楽的チャレンジを続けるノエルの新境地に、オアシス時代から彼を追いかけてきた音楽ライターの妹沢奈美が迫る。


ベースとドラム、声があればいい

昨年から今年にかけてのノエル・ギャラガーの海外でのインタビューを読んでいると、とても興味深い言い回しに何度も行き当たった。それは「前に似合った服でも、それが今の自分に似合うとは限らない。ならば、今の自分が好きなものを俺は探して着る」という内容。オアシスの再結成について再び問われた際にも、この例え話を出しながらきっぱり否定していた。そして、彼が昨年からスタートしたノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズのEP三部作シリーズについても同様に、彼はこの例え話を引き合いに出している。

昨年6月にリリースした『ブラック・スター・ダンシング』EP、そして9月の『ディス・イズ・ザ・プレイス』EPを聴いた人は、彼のこの言葉に深く頷くに違いない。この3月6日リリースの『ブルー・ムーン・ライジング』EPをもってついに三部作が完結したわけだが、まとめて聴いていると、今のノエルが興味を持っている服が、オアシス時代のそれとは全く異なることがよくわかる。特にそれぞれの表題曲は、オアシス時代の名残りを全く感じさせない。驚くほどに。



まず、第1弾としてリリースされた『ブラック・スター・ダンシング』EPから紐解いていこう。この表題曲はまず発表された時に、ノエルの意外なほどストレートなダンス・チューンとして驚いた人も多いだろう。しかも、タイトルからデヴィッド・ボウイとまずリンクさせたくなる。実際のところ、ノエルが好きなボウイ曲といえば『スケアリー・モンスターズ』(80年)と『レッツ・ダンス』(83年)の頃の作品。もちろんノエルがまだバンドを始める前に聴いていた作品だ。しかも、「ブラック・スター・ダンシング」を来日公演で生で聴いた印象としては、かつてのニュー・オーダーのベース・ラインおよびグルーヴも彷彿させ、本気でこちらを踊らせようとしていた。そして思い出されるのが、生粋のマンチェスター育ちとして、ノエルがハシエンダ(82年にオープンしたクラブ)に通っていたという事実だ。つまり、一人のリスナーとして音楽に夢中だった80年代前半の様々な体験と記憶が、この曲では昇華されている。同時に、ギターの要素は後半の間奏のソロ部分でエッセンス的に使用するのみ。つまりこの曲には、ノエルを語る際にオアシス時代からつきまとっていた「60年代、70年代ロックンロールからの影響」をほとんど感じさせない。とても興味深い。

ちなみに、最近のノエルはベースで曲を書くことが多いという。「ベースとドラム、それから声だけがあればいい」とすら海外のインタビューでは語っていた。これもまた、以前までの彼からは聞いたことのなかった話だ。これまでギターやピアノで長年にわたり曲を作ってきたからこそ、ベースで曲を作るという新鮮な挑戦は、彼の音楽性に次々と新しい要素をもたらしたのは想像に難くない。

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