リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察

続く2018年の「Good Things」は1stに比べるとかなりモダンな仕上がりになっています。ブリッジズは元々ジニュワインやアッシャーといったR&Bシンガーのファンだったそうで、端から古典派を標榜していたわけではなく、自分の資質にマッチしていたという理由で古風な作風を選んだ模様です。2ndでは彼の持ち味のテンダネスに加えてアンダーソン・パーク的な粘っこさも感じられる唱法になりました。ファレル風のトラックが可笑しい「If It Feels Good (Then It Must Be)」など聴くと、都会で揉まれたのねという感慨が湧いてきます。前作との落差に思わず木綿のハンカチーフで涙を拭きたくなるほどです。というのはもちろん冗談で、どちらが良い悪いという話ではないので悪しからず。



さて、冒頭に述べた"ちんまりグルーヴ"について話を進めます。「はあ? ちんまりグルーヴ? なんじゃそりゃ!」と思った方がほとんどだと思います。それもそのはず、ちんまりグルーヴとは当方が勝手に呼んでいるだけの、まったくもって一般的ではない呼称だからです。

ひとまず具体例を申し上げましょう。近年の例では、今回の「Midnight」はもちろんのこと、他にもバッドバッドノットグッドの「Key To Love」、コナン・モカシンの「Charlotte’s Thong」、マック・デマルコの「Nobody」、マイルド・ハイ・クラブの「Kokopeli」などが挙げられます。J・J・ケイルやシュギー・オーティスはちんまりグルーヴのベテラン勢と言えるし、国内においては坂本慎太郎がちんまりグルーヴの筆頭格と呼んで差し支えないかもしれません。

ここでちんまりグルーヴを当方なりに定義すると以下のようになります。より少ない音、質素な音作り、控えめな音量によってリズムが元来有する躍動感を表現する技法、及びそのリズムそのもの。

ここ十数年で浮上した「チル」というタームとは無縁ではないのかもしれません。また、アメリカの公共ラジオ局NPRによる人気企画タイニー・デスク・コンサートがちんまりグルーヴに寄与した役割は見過ごせないでしょう。タイニー・デスク・コンサートはちんまりグルーヴに取り組む者たちに勇気を与えたはずです。ちなみにクルアンビンがこの企画に登場した際、普段と何一つ変わらぬ演奏だったことに感動しました。タイニーデスクのボリュームが彼らにとってはデフォルトなのです。

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